非暴力平和隊・日本

3月4日

【講演報告】

1999年、オランダ・ハーグで、平和運動のための国際NGO会議が開催された。この会議に出席した二人の米国人が呼びかけ、国際紛争を非暴力手段で解決する運動の展開を構想し、非暴力平和隊(Nonviolent Peaceforce、省略してNP)というNGOが2002年に創設された。講師のウォリス氏は、英国ブラッドフォード大学で平和学博士号を取得、国際平和旅団などの平和系NGOで活動した後、NPの設立に参加、初代の共同代表を務め、2010年からは国際事務局長を務めている。2時間の会合は、まず最初に、同行した非暴力平和隊国際理事/非暴力平和隊・日本(NPJ)理事の阿木幸男氏からの、NPについてDVDを用いての紹介、また、NPが関わってきた紛争の一つであるスリランカの政治情勢についての解説があった。次に、ウォリス氏が、非武装PKOの可能性を、 非暴力平和隊のスリランカでの活動を中心に講演し、さいごに、参加者の自由な質問に答える形をとった。

 NPは、いわゆる「平和維持(Peace Keeping)」の仕事をしている。紛争地に直接介入し、政治的にどのグループの立場も取らない(Nonpartisanship)原則を厳守、解決はあくまでも当事者にゆだねる。暴力(特に直接的暴力)を抑止し、大勢の世界市民による非暴力直接行動によって、紛争を解決の段階に進めるために、まずは殺し合いを止めることを手助けする。軍隊に頼らない介入、軍隊のない世界を目指すための小さな役割をNPは果たそうとしており、非暴力手段によるPKOに焦点を当てている。

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国連のPKO が何10万人もの軍隊派遣に90億ドル以上の出費を必要とした事に比べ、NPの活動ならば極めて安価で、より良い効果を上げ得ることが認められつつある。スリランカの武力紛争、内戦においては、2002年に、政府軍とタミル抵抗勢力との間に停戦協定が結ばれ、NPは政治的立場を取らない姿勢を表明しつつ、各グループの信頼を得ることに時間を費やし、紛争の諸問題に関連して、当事者が自ら解決に至る為の条件を整える努力を重ねてきた。

具体的な活動の一つに、紛争の現場において「部外者が居る」という状況を創り出すが、その事実によって、武装勢力による暴力を抑制する効果を持つことができる。国連の武装PKO部隊などは基地内に留まっていることが多く、実際の現地の紛争が武力化することを抑止する積極的な活動をしていない。NPは、現地の当事者である村人らと話をし、他のNGOとネットワークし、事実を確認する。そうやって信頼を得てはじめて、紛争の状況に平和的な影響を及ぼすことができるようになる。

いくつかの具体的な成功例も報告された。スリランカのバブニアにおいて、去年パートナー団体に殺害の脅迫がきた。調査すると、ある政治団体が関係していることが分かり、トリンコマリーの政治家が裏で操作していることが判明した。NPはその政治家に会いに行き、(政治家は関与を否定したが)その後脅迫はなくなった。同様のケースはいくつかある。また、スリランカでよく起こっていた子供の誘拐に関しては、当時、「子供が誘拐されるのは、悲しいことではあるが特別なことではない」という概念が市民の内に一般化されていた。そういった暴力の犠牲になっている母親に同伴して、反政府軍のキャンプまで出かけて行き、説得し、子供を取り返すという活動も実践してきた。そういった方法で、市民(紛争当事者)が「当た り前」としてきた文化・構造を転換するのである。

質疑応答では、参加者の聞きたいことのニーズにある程度対応することができたのではないかと思う。成功例ばかりではなく、非暴力直接介入のPKO活動を成功させるための課題も共有された。フィールドのメンバーを育成するためのシステムの開発と実践については、まだまだ不十分である。厳しい自己管理と自己抑制の実践を求めるための訓練は、今のところ厳密には技術習得にとどまっており、非暴力的な人格の養成を実施するまでに至っていない。また、フィールド・メンバーは様々な世代、国籍、言語、ジェンダーに渡るため(かつ、平和への情熱が人並み以上の人ばかり)、チーム内の人間関係をバランス良く保つのは困難である。活動における言葉は、現地語の習得が望ましいが、時間的財政的に十分ではなく、結局のとこ ろ英語を主に用い、通訳を介している。活動資金の問題は、常に大きな課題である。今のところ、主として各国の政府関連の支援に頼っているのが実情で、オーストラリア、ニュージーランド、オランダ、フィリピン等の政府の支援を得てきた。しかし、政府の支援には制限が多いこともあり、個人からの献金を得ることが望ましいなど、問題点も指摘された。

聴衆は、多くの大学生(大阪女学院、他の大学)を含め、参加者約30名ほどに恵まれた。英語での講演であったのだが、逐語訳ではなく、要点のみをまとめるような形式の通訳により、時間を最大限に活用することに力点を置いたつもりである。様々な人々の協力により実現した今回の講演であったが、あまり聴くチャンスの無い非暴力PKOについての貴重な機会であったと思う。

(報告者:奥本京子NPJ理事)

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