非暴力平和隊・日本

スリランカ通信(27)2004.7.21

スリランカ通信27号に代えて/NPとして、外国人として(後半)

2004年7月21日
大島みどり

この通信は私の個人的な感想や考えを述べたものであり、Nonviolent Peaceforceあるいは非暴力平和隊・日本の公式見解を示すものではありません。転載・転用をご希望の際は、筆者あてご連絡ください。

まず初めにお断りしたいことは、このスリランカ通信27が、初稿とは違うものだということです。初稿のものは、通信26と同日の7月6日に、友人・知人たちに向けてすでに送られました。諸事情から、27を書き直させていただくことにしたのですが、初稿からまだ月日がそれほど経っていない段階で、すでにお送りした方々への誤解と失礼を避けるために、今回この通信を「27に代えて」と題させていただくことにしました。どうかご了承ください。

スリランカ通信26の続きです。どうか26からお読みください。

何度か触れてきましたように、NPスリランカ・プロジェクトはコロンボの本部のほかに、4箇所のフィールド事務所を持っています。北部のジャフナ、北東部のムートア(トリンコマリー南部)、東部のヴァルチェナイ(バティカロア北部)、そして南部のマータラです。この中で、よく海外の新聞にも紹介される紛争地帯は、北東部と東部だけです。北部のジャフナはもちろん反政府組織のLTTEが勢力を持つ地域なので、なにか問題が起こると大変危険な状態になる可能性はありますが、2002年の停戦後、とりあえずそうした状態は回避できているようです。東部のヴァルチェナイについては、以前にも少しお話しているとおり、そこでの対立・紛争が政府対LTTEであろうと、LTTEの北部対東部であろうと、あるいはタミル人対イスラム教徒コミュニティのものであろうと、結果的に多大な被害をこうむっているのは一般市民で、NPのメンバーは、そうした人々の支援に朝から晩まで力を注いでいます。北東部のムートアは、いまのところヴァルチェナイほどの緊張感と緊急度はありませんが、それでも状況は同じようなものです。

では南部はどうでしょう。ここでのわたしたちNPの最大の問題は、誰に聞いても「ここには問題はない」という返事が返ってくることです。そういえば、先日立ち寄った薬局で仕事について訊かれたので答えたところ、同じように「ここには問題はない。あなたがいる必要はない。北東部へ行きなさい」と言われました。その上、日本の自衛隊イラク派遣について非難され、日本でもやることはたくさんあるだろう、といったようなことまで言われ、確かにそれはその通りなのですが、かなり落ち込みました。(またそれについては別の機会に。)

つまり、NPが南部にチームを置く意味とは何なのだろう、ということです。わたしも、わたしのチームメイトもともに、南部での平和活動(ピース・ビルディング)の大切さを事あるごとに感じています。つまりこのスリランカで70%以上を占めるシンハラ人社会が動かない限り、北東部での、あるいはタミル人対シンハラ人の紛争はなくならないからです。タミル人の支援はどこまでやっても終わることはありません。対症療法だけをしていても、大きな病気がよくならないのと同じです。病気の原因を知り、根本治療をしていかない限り、いつまた同じ症状が復活するかわかりません。わたしがイスラエル・パレスチナ問題に取り組むとき(まだこれからという段階ですが)、イスラエルの人々にアプローチをし、彼らの中で問題を解決していこうとしている人々と手をつないで行きたいと思うのは、そのためです。マイノリティーの支援にはマジョリティーからの理解と協力が欠かせないのです。

ただ正直言って、わたしの見える部分では、この南部シンハラ人社会で北東部の現状や、タミル人の日々の生活を知ろうと思う人々、あるいは国家としての和平交渉なり平和問題を考えようとする人々は、ほんとうにまれだと言ってよいでしょう。人々は、「南部は和平交渉からとり残され、なんの恩恵も受けていない」、「国際NGOは北東部のタミル人の支援に余念が無く、南部は無視されている」、「南部の貧困や失業率はこんなにひどいのに、誰も支援してくれない」といったネガティブと言っても過言でない感想を持ちながら、少しでもよい賃金の職を捜し、子どもたちを塾、よい学校に入れ、英語を学ばせることに日々を送っています。わたしは、当然のことながら、そうした彼らを責めるつもりも、非難するつもりもありません。じぶんたちの生活に忙しく、市民社会のことなどかまっていられないといった状況は、日本でもよく見られる現象です。

ではそんな社会の中で、NPマータラができることは何なのでしょう。国際NGOがひとつもないマータラにひょっこりやってきたNPに、人々は何を期待するでしょう。大多数の国際NGOがやっているような資金援助も、教育・開発プログラムも、トレーニングも建物を建てるプロジェクトも持たないNPを、人々が不思議がるのは、無理も無いことです。「じぶんたちのために何かしてくれる」はずの国際NGOに、知り合いのAさんが週に2度もやって来るのは、わたしたちNPが、まだマータラで、その存在意義を、人々に理解してもらっていない証拠にほかならないのです。

いま、わたしはNPスリランカ・プロジェクトのマネジメント・チームに対して、NPが南部にオフィスを置く意味について、問い直しをしています。南部にはオフィスを置く意味がないと言うのではなく、置くのであれば、そのあり方について、徹底的に討議・検討し、戦略的なアプローチを考えたいと思うからです。そうでなくては、いつまでたっても、わたしたちは、地元の人々にとって「サンタクロース」以上の意味を持たないからです。

これはパイロット・プロジェクトであるが故の、大きな試行錯誤の実例ですが、「南部には問題は無い」「サンタクロースになってほしい」という現状を嘆いている時間があったら、わたしはフィールド・ワーカーのひとりとして、NPスリランカ・プロジェクトを進めていくひとりとして、気づいたことを見逃さず、妥協せずに、改善をしていきたいと思っています。

年に一度だけプレゼントを持ってくるサンタクロースではない、ちょっと髪型や肌の色が違う隣人として、助け合い、支えあい、でも頼り切ることのない信頼関係を南部の人々と築いていくことができたらと思います。

大島みどり

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