非暴力平和隊・日本

スリランカ通信(57)2005.07.09

スリランカ通信57号/スリランカから坂道を転げ落ちる世界へ向けて

2005年7月9日
大島みどり

この通信は私の個人的な感想や考えを述べたものであり、Nonviolent Peaceforceあるいは非暴力平和隊・日本の公式見解を示すものではありません。転載・転用をご希望の際は、筆者あてご連絡ください。

先日はロンドンで爆弾事件が相次ぎました。世界はますますテロ撲滅に対するテロ(破壊)活動に乗り出し、もはや安全・安心して住めるところなどなくなりつつあるようです。

スリランカではコロンボや東部(バティカロア、トリンコマリー周辺)で殺人事件や爆弾・手榴弾事件、誘拐等が頻繁に起こっています。犯人はなかなかあがらず、それらが政府(軍隊)対LTTEの紛争なのか、LTTE内(東部カルナ・グループと北部プラバカラン・グループ)の亀裂なのか、あるいは犯罪組織間の問題か、それとももっと個人的な金銭や人間関係にまつわる怨念によるものなのか、把握するのは並大抵ではありません。一方のグループ/コミュニティ(たとえばタミル人漁師コミュニティ)の見解と、他方のグループ/コミュニティ(たとえばムスリム漁師コミュニティ)の見解はまったく違うので、事実は藪の中です。ただひとつ言えるのは、いわゆるスモール・アームと呼ばれる小銃などの小型武器が格安で手に入り、どうやらたくさんの人々がこうしたものを所持しているということです。そして、そうした武器を使うこと、つまり人を殺(あや)めることが、あまりにたやすくなされているというのが、わたしの感想です。長年内戦などの続く国では、もしかしたら状況が似通っているのかもしれませんが、人々が殺人や誘拐、暴動、暴力、といったものに、慣れっこになってしまいます。もちろんじぶんの身内に何かが起これば、それは一大事ですが、そうでもなければ、あまり気にも留めなくなってしまうのかもしれません。神経が麻痺してしまうのです。あるいは、麻痺させなければ、こうした現実の中で暮らしていけないのかもしれません。恐ろしいのは、暴力を振るうこと、暴力を許す(あきらめる)ことに慣れてしまう、人間のメンタリティーです。悲しいことです。

わたしたちムトゥール・チームは、いまトリンコマリーの町(県中央部)とムトゥール(県南部)を週に2−3日ずつ行き来、滞在しながら、それぞれのグループやコミュニティをつなぐ橋渡しをしています。また同時に、国際NGO・国連組織やローカルのNGOとともに、人々が少しでも安全に、また安心して日々のささやかな生活を送れるような、支援や提案をしています。NPが自らプログラムを組んで実施するのではなく、ローカルNGOやコミュニティ、平和活動家、行政(警察を含む)、宗教のリーダーをつなぎ、彼らのイニシャティブ(自発性)を促すことで、定期的な対話や活動を、促進させていきたいと考えています。トリンコマリー県は、シンハラ/タミル/ムスリムの小さなコミュニティが点在しているため、橋渡しの必要なコミュニティと人々が山のように存在します。人々の心に根ざす不信感と疑惑、恐怖、長年の不和は、それほど簡単にはなくなりません。外に現れる暴力事件は、見えている氷山の一角です。海中深くに達する氷山を溶解するには、それに取り組む当事者たちの地道な努力と忍耐が必要です。そしてそれを支援することが、わたしたちにできる唯一の仕事です。

日増しに危なくなる世界情勢の中で、スリランカの政治・社会・人々の暮らしが良くなる可能性などあるのだろうかといぶかりながらも、目の前にある小さな問題から手をつけていくほかはありません。「LTTEが悪い、政府が悪い、政治家が悪い、私腹を肥やす人たちがいる・・・。」他人のことは、いくらでも言えます。でもたとえそれが事実であったとしても、そうした人たちを育て、許し、選挙で選び、支援しているのが、わたしたちひとりひとりであることに、わたしたちは気づきません。気づきたくないのでしょう。スリランカも、日本も、世界中いたるところでも同じです。だからこそ、非暴力と平和は、わたしたちひとりひとりの心に育つものだと思います。それは、外から与えられるものでも、押し付けられるものでもありません。アメリカも、アルカイダも、国連軍も、平和憲法9条も、暴力からわたしたちを守ってはくれません。わたしたちを守ってくれるのは、わたしたち自身の心です。心から発する行動です。わたしたちが支援すべきは、憲法9条ではなく、憲法9条を守ろうとするわたしたち自身の思いと行動です。日本政府と9条を改変しようと考える人たちが、それを理解してくれたら、坂道を転げ落ちようとする世界を、日本が一時でも止めるチャンスがまだあるかもしれません。(でも、わたしの敬愛した、野口体操(整体ではありません)の野口三千三先生は、20年前に、「坂道を転げ落ちる世界を止める手段はもうない。せめてスロー・ダウンさせられたら」とおっしゃっていました。)

なんだか話がまた横道に逸れてすみません。
毎日が真夏のムトゥールから、夏本番を迎えるみなさまに、書中お見舞い申し上げます。おからだにお気をつけて。

大島みどり

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