非暴力平和隊・日本

非暴力平和隊実現可能性の研究【第4章 第2節】

第4章 非暴力平和隊の職員

マライケ・ユンゲ、ティム・ウォリス

4.2 枠組みの展開

4.2.1 従事期間の長さ

一般に、平和活動の職員のための従事期間の長さは、その人が必要とされたプロジェクトによって異なっている。

紛争地域への短期的な配備は、たとえば、OSCEの選挙支援と同じように、たとえば、MSFや国連難民高等弁務官あるいは赤十字を通しての緊急の救済活動の分野で主におこなわれ、個人の配備期間は3週間から6カ月の間である。これらの派遣は、派遣されるスタッフがすぐに応じられるかどうかにかかっており、しばしば72時間以内に新人配備の準備が完了することを要求される。これらの組織では、ある場合には、その組織の中からスタッフを配備し、スタッフをある任務から別の任務に移すだけ、ということもある。しかしながら、その組織内のスタッフの中から振り向けるよりも、はるかに多くの新人が必要とされることがしばしばである。この場合に、いくつかの組織では、あらかじめ選別済みの「予備」職員のデータベースから職員を集めている。その「予備」職員が、常勤の職業についている場合には、短期間の事前通告で年次休暇、あるいは無給の休暇を取ることができるように、雇用主との間である種の協定を交わしていることが多い。

しかしながら、平和チーム組織や市民平和活動では、彼らのスタッフに対して少なくとも1年間はプロジェクトに従事するよう要求している。彼らのプロジェクトは、長期の目標を持っており、その成功は、状況を良く知っていて、かつ、現場の人々と密接な関係を持っているスタッフにかかっている。このような状況において、1989年のPBIの職員方針の転換は興味深い洞察を提供している。グアテマラにおいて彼らがプレゼンスを始めた時には、PBIは、このプロジェクトの現場の管理に当たる長期間のチームのメンバーと、エスコートのための短期間のボランティア、という二つの階層の職員配置方式で管理した。このやり方で、不十分な審査を通り、2週間ないし1カ月間の不十分なトレーニングしか受けなかったボランティアが何百人も、このプロジェクトに合格した。しかしながら、この構造には問題があり過ぎることがすぐに判明した。 これらの短期間のボランティアは、その国の状況を習得する時間もなく、活動の条件や生活の条件に慣れる時間もなかった。彼らは、ふるまいかたを本当に学ぶのに十分なほど長くは滞在しなかったし、文化的な無知がしばしば攻撃的なふるまいを生み、彼らの全般的な詮索好きが、地元の人々の中に、PBIの信頼性に対する問題を引き起こした。現地での信頼しあう関係を保ち、思慮深さと分析の高いレベルを保証し、チームの連続性と親近感の確固たる理解を保証する、というPBIの成功の主柱は、急速な方向転換によってすべてひどく傷つけられた。

結局、1989年に、最短の 従事期間は6カ月に延長され、二つの階層という構造は廃止された。現在では、すべてのボランティアが、PBIの派遣に参加する前に、ある種の人物紹介と経験を持っていることが期待されており、必修のトレーニング課程を終了しなければならず、最低限度1年間滞在することが要求されている。

前述したように、赤十字、MSF、OSCEあるいは国連のような大きな組織は、長期間と短期間のプロジェクトの両方をおこなっており、異なる期間向けのスタッフを必要としている。平和構築と紛争後の再建プロジェクトは、長期間の契約をしたチームによって実行されるのに対して、差し迫った緊急の場合、あるいは選挙の支援のような短期間のプロジェクトに対しては、短期間の契約が交わされる。しかしながら、短期間の割り当ては、以前の派遣団の一員であった個人、あるいは、実行するように依頼される活動の種類に経験を持っていることを示すことのできる個人に与えられる傾向がある。

上述のように「新人募集機関」と定義されたこれらの組織は、ある期間(72時間から数カ月間)以内に配備に応じることが可能な、すべての種類の専門的知識と個人的な技能を持つ個人のデータベースを管理している。これらの個人は、ある組織に対する特定の任務のために選別された訳ではないが、可能性のある任務に対して適切であるかもしれないある種の技能と資格を持っている。彼らは、その結果、ある組織のための「リザーブ」資格は持っていないが、むしろ、どのような組織による配備にも対応可能な、そして、あらかじめ選別済みの潜在的候補者のプールに属している。

しかしながら、MSFや国連およびOSCEのようないくつかの組織は、自前のあらかじめ選別済みの候補者の登録名簿を持っているが、その中には、既にそれらの組織の総合的構造や使命についての教養などいくつかの状況を心得ている以前の派遣スタッフも含まれている。彼らは公式には「リザーブ」とは呼ばれないけれども、ある種の任務のために要求されるある水準の準備を備えた「予備」要員である、と大いに考えられている。

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4.2.2 報酬と手当

服務に対する報酬は、それぞれの組織によって大きく相違している。すべての組織で規定された中で、最低額の報酬は、派遣前のトレーニング、派遣中の宿泊設備と食費、および派遣中の旅費、という構成である。ほとんどの組織は、これらの基礎訓練と最低限の生活費に加えて、配備される国までの旅費および海外旅行傷害保険料をまかない、小額の月々の給付金を支払っている。

しかしながら、給料と付加手当は、送り出す組織によって大きく異なり、契約期間の長さ、地位あるいは仕事の肩書き、候補者の資格と経験、そしてそれぞれの組織の異なった雇用方針によって異なっている。一方の極端な例は、PBIのような小さなボランティア組織デ、ボランティアに対し自分の海外旅行傷害保険料さえ負担するよう要求し、最低限の生活費とトレーニング費用だけを支払っている。もう一方の極端な例は、国連のような政府間組織である。国連の給料表は、国際民間サービス委員会(ICSC)によって設定されており、国連の給料は、最も高く支払っている全国民間サービスによって提供されている給料に匹敵する。これらの人の専門的経験と学歴に従って決められた競合的給料は別として、国連によって提供される付加手当には、以下のものが含まれている。

  • 最低限度派遣団生活手当: 食費、住居費、近距離の交通費、その他の現地経費をまかなうように意図された日当で、個人の給料に追加される。その額は、派遣地によって、1日あたり32 ドルから最高179ドル (1か月あたりおおよそ1,000ドルから5,000ドル ) である。
  • 健康診断書/免疫処置: 任命を求める候補者はすべて、割り当てられる地域における仕事に対する身体的ならびに精神的な適合性に関する国連基準に合致していなければならない。さらに、規定されているように、任命の際に免疫処置が要求されるか推奨される。
  • 国外医療傷害保険による保証: 派遣地域において、任命の期間中有効な、適切な医療傷害保険による保証。この保証には医療上の避難条項を含むこと。
  • 年次休暇/病気休暇: 連続した勤務ひと月につき、2日半の年次有給休暇。連続した勤務ひと月ごとに2労働日の病気休暇。

「ドイツ平和市民活動」の下で運営している組織は、開発援助作業員に対する法定の枠組みに従って、職員を配備している。その枠組みでは、月給に加えて以下の諸手当を含めている。

  • 家具手当
  • 復帰手当(勤務するひと月あたりある一定金額で、個人の帰国の際に1回に支払われる)
  • 住居とエネルギーの費用
  • 旅費
  • 健康保険料、事故保険料、損害賠償保険料、および老齢年金分担金を含めた社会保障手当
  • 年次休暇: 有給の年次休暇は、1契約月あたり2.5暦日を含んでいる。(1年あたり30暦日)

国際的な国連のボランティア専門家は、彼らが任命された職を始めるにあたり、現地の生活コストと扶養家族の数によって、750ドルないし2,700ドルからのボランティア居住手当、という引っ越し交付金を受ける。また、勤務の1か月あたり100ドルの再居住手当を受ける。

また、「ボランティア・サービス・オーバーシーズ」(VSO-UK)は、宿泊設備の他に、配置先によって異なるボランティア居住手当を支給する他、さまざまな交付金を、勤務開始時点、中間点、および勤務終了時に支給している。また、VSOは、ボランティアが帰国した時に、社会保障を受ける権利が与えられるように、ボランティアが海外にいる期間、関連する国定の保険分担金を支払う。 また、少なくとも18カ月間働いたボランティアは、年金向けの分担金を受ける権利が与えられる。

組織の財政的な支払い能力とは別に、これらの対照的な規定は、報酬の問題に対するいろいろな哲学的取り組み方に基づいている。平和構築で、現地のガイドをやっているアルノ・トルーガーは「現地の運営に適任の人々に対して、仕事の保証を含めて、経営的、財政的な支援を提供することができればできるほど、その派遣団に最も適切な人が参加する見込みは、より一層高くなる」と書いている。報酬が良ければ良いほど、適任の候補者が得られる、というのは、問題に対するビジネスライクな職業的取り組み方であろう。

この論点の対極にあるのは、実際的な平和活動に従事する時に、主要な動機づけの要素は金銭であるべきではない、という信念である。「金銭的誘因不要」の方針で運営しているMSFはこの範疇に分類される 。 MSFは、2種類の給料を支給している。役割とは関係なく、勤務が6カ月未満のスタッフ、あるいは、MSFプロジェクトへの従事が2回以下のスタッフに対しては、1カ月あたり600ドルを支払っている。正規のMSF secondeesは、長期派遣のスタッフと同様、もっと高いおよそ1,200ドルの給料を受け取っている。同時にMSFは、高い資格を持ち経験豊富なスタッフを採用しようと努めており、これが厳しい問題をしばしば引き起こしている。資格が高いほど、彼女または彼は、保険料、住宅ローン、子どもの教育費、その他の費用のための月々の支出額が高くなるようである。1カ月あたり1,200ドルという金額は、1人分の月々の生活費をまかなうだけならば十分であるが、家族全員を養うには不十分である。しかしながらMSFは、その職員が不在の間のsecondeesの生活費をまかなうことは考慮していないし、帰国するスタッフへの「再統合」手当も支払っていない。本当に献身的な職員にとって、金銭が誘因であってはならない、という信念を厳格に堅持している。 (訳者注:secondeeなる単語は辞書にはない)

この他に、現地での職員に対する報酬に関連して考慮すべき2つの重要な要素がある。1つは、特に比較的狭い地域の中に、多くの職員が居住しているような場合に、この報酬が地元の経済の上に、そして地元の人々との関係の上に及ぼすかもしれない影響である。特に国連派遣団が、物件その他の価格を高騰させてしまい、地元の人々がそこに住む余裕がもはやなくなってしまうほどにしてしまったことが知られている。極めて不安定な状況の中で、そのような影響は、平和への見通しをひどく傷つけてしまって、派遣団の存在理由すべてに反することになる。

もう一つの要素は、同じ地域で活動している違う組織によって給付されている相対的な報酬の総額である。たとえばPBIは、同じ地域で活動していて、PBIよりはるかに良い雇用条件を提示する国連機関や他のNGOに、多年にわたって実に多くのボランティアを奪われている。これは給料レベルだけによるものではないが、それが一つの要因であることは確かである。すべての現地スタッフに対して、責任や勤務年限に関わりなく、均一の報酬金額を支給する組織は、何らかの昇格の見通しや、その他スタッフを引き止める誘因を提示する組織に、優秀なスタッフを奪われるようである。

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4.2.3 結論と推奨

NPの組織と運営についての明快な映像を持たずに、職員に対する枠組みを明確にすることは困難である。たとえば、配備期間の長さに関する推奨事項は、派遣団の性格ならびに派遣されるスタッフに課せられる職務によって大きく異なる。しかしながら、そのプロジェクトの性格が長期的なものであれ短期的なものであれ、派遣スタッフが組織の運営上の、そして、哲学的な枠組みを良く知り、ある国の政治的、文化的、社会経済的状況を良く知っているならば、それが大目的のためになる、ということに留意することが重要である。すでに概説したようにPBIの場合は、PBIの活動を成功させるためには、スタッフの長期間にわたる掛かり合いが重要であることを強調している。ルイス・エンリケ・エイグーレンによると、PBIが最短の滞在期間を要求するよう方針転換したことが、この組織を成長させた一つの主要なよりどころを支えている--ボランティアは、主体性の強い組織的な意見を展開し始め、派遣任務から帰国した後も、PBIにかかわり続けた。PBIは、ボランティアのこの個人的な掛かり合いに大幅に依拠しており、PBIの事務所の大部分は、無給の帰国したボランティアによってほぼ完全に運営されている。

研究された組織の大部分では、プロジェクトが成功するための前提条件は、経験豊富なスタッフがいることだ、という事実を強調していた。経験は当然ながら時の経過と共に深まり、ある人がある組織に長くかかわるほど、彼女あるいは彼はその組織と方針に詳しくなり、より良く貢献することができるだろう。したがって、通常の期待は、最低1年間はNPのような組織で活動してくれるスタッフを得ることになるだろう。しかしながら、紛争や危機の発生への対処として、多数の人々を配備することができるようにするためには、長期間のためばかりでなく、短期間のためのスタッフを募集するための条項を作らなければならない。短期間の配置は、長期間のスタッフに適用される条項とは異なった条項と条件の組合せを必要とするかもしれない。

同様に、報酬の問題には、どのような経験則も適用することはできない。 異なった役割は異なったレベルの技能を必要とし、人々は他の組織や会社のように、彼らの活動に対する報酬が、自分の資格と責任の本質に見合うことを期待している。

「給料が良ければ良いほど、良いスタッフが集まる」という理論が広く受け入れられている。そして、平和活動に従事しようという動機付けの重要な要素は、大義への掛かり合いであることが望ましいのであるが、NPは、掛かり合う人々には給料支払いの必要はない、という信念に立脚すべきではない。良い給料を支払うのは、その人の技能と経験および掛かり合いを認めている、という合図であり、その人が自分の仕事に努力と熱意を注ぐ誘因として働いている。したがって、給料と手当は、現実的であって、その人の経験/資格、職務の責任、および勤務年限の長さに応じて、支払われることが望ましい。このシステムは、短期間のどちらかといえば経験の浅いボランティアに対する低い給料の地位から、責任のある立場の高い資格を持った新人の高給の地位まで、幅広い給与体系に帰着することになろう。

一つのオプションは、UNVのような組織の例にならって、現地での活動家と専門家の間を区別することであろう。そこでは、それほどの経験を持っていない前者が、後者より責任の少ない地位に置かれている。地位の等級付けの条項で、そのような区別がさらに多くあるならば、報酬の段階が、PBI型ボランティア活動の最低レベル(すなわち、食費と住居費にポケットマネーを足して、1カ月あたり200ドルから300ドル程度まで)から、国連ボランティアの生活手当あるいは国連現地スタッフの日給のレート(1カ月あたり2,000ドルから3,000ドル)のレベルまで、つながっているのを想像することは可能であろう。またこれは、スタッフが一旦現地に出た時に、他の組織に移動するのを妨げるようなスタッフ引き止めの誘因を提供しているのであろう。

最後に、給料は現地スタッフの母国の銀行口座に払い込み、現地では日決めの生活手当を費やさせるだけ、といういくつかの開発組織によって採用されたオプションがある。このやり方は、彼らのプレゼンスが地元の経済に与える衝撃を減らし、現地の活動家の暮らしを地元の人々と同程度にすることになるし、同時にその一方で、人々が家族を持ち、住宅ローン、銀行ローン、年金積み立て、を負担しており、彼らが帰国した時に即座の雇用の見通しが低いことが、現地での日々の費用に加えて、海外で働いていることに対する何らかの経済的な補償を必要としていることを認知している。

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