非暴力平和隊・日本

「非暴力平和隊 実現可能性の研究」の要約(日本語訳)

【非暴力平和隊】

非暴力平和隊(以下NPと略す)は、常設の国際非暴力平和隊を組織し、訓練することを進めている国際的プロジェクトです。平和隊は、紛争地域に派遣されて、殺戮と破壊を防止し人権を保護することによって、現地のグループが非暴力的に取り組み、対話により、平和的解決を追求できる環境をつくり出します。

その目的とするところは、可能な限り現地のグループと協力して作業し、紛争状況にある人々に対して非暴力の大規模な保護サービス(同行、国際的存在、監視、保護のための介入、何が起きているかを世界に知らせる、これに加えてトレーニングのようないろいろな平和構築活動)を提供するための、広範な支持母体を持つ国際的な市民団体となることです。NPは、異なった多くの文化圏からの、市民平和維持のいろいろな役割について能力を持つ専門的な活動要員をトレーニングし維持します。NPは、平和的変革あるいは紛争の解決のために活動している現地の団体あるいは非暴力運動団体の招きによって介入します。もし可能ならばすべての関係者の承認を得ることを模索します。

非暴力平和隊のプロジェクトは、当面は200人の現役メンバーと400人の予備役メンバーおよび500人の支援メンバーを、最終的には10年の間に、2000人の現役メンバーと4000人の予備役メンバーおよび5000人の支援メンバーのレベルまでに到達する常設の非暴力平和隊を作り上げ、維持していくために必要な組織を築き上げ、さらに一般的な第三者による非暴力的介入の理論と実際を発展させる、という二重の目的を持っています。非暴力平和隊は、他の諸国のあるいは国際的なNGOならびに政府組織・機関との協力および支援を求めています。

現時点では、NPはまだ調査計画の段階にあります。公式にはアメリカ合州国にあるNGO「ピースワーカーズ」の一部分でありますが、11カ国からのメンバーによる暫定運営委員会によって運営されています。2002年11月にインドのニューデリーで開かれる招集会議において、国際NGOとして設立されるでしょう。2003年には、派遣先はまだ未定ですがパイロット・プロジェクトを発足させることになるでしょう。

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【実現可能性に関する調査報告書】

この調査は、非暴力平和隊の調査段階の一つとして「ピースワーカーズ」から依頼されたものです。その課題は、国際的な市民団体による大規模な組織化された非暴力介入の可能性について徹底的な調査をおこない調整することでした。

この調査では、そのようなプロジェクトの有用性および実行に関する問題に焦点を当てました。この調査の指標的な問題は次のようなものでした。すなわち、紛争介入の中でNPが果たすことのできる役割があるのか? どういうことがその任務となるのか?独自の寄与とは何なのか?第三者として非暴力的取組みをどのように支援できるのだろうか?これまでに機能すると立証されたのはどのような戦略、どのような戦術だったのか? チームを組むなどして活動している現地のパートナーたちとの現地でのつながりを、NPはどのように作り上げ維持することができるのだろうか?

NPは新規採用とトレーニングをどのように組織しようとするのだろうか?
ここに提出した調査の大部分は、2000年10月から2001年7月までの9か月間になされました。その成果の草稿版は、2001年7月末に、NPが組織してアメリカ合州国セント・ポール市でおこなわれた調査検討セミナーに提出されました。その時の論議の結論は部分的にこの研究に包含されています。

この研究チームのメンバーは、アメリカ合州国ダルースの非暴力活動家でカトリックの労働司祭のドーナ・ハワード、ロンドンにいるイギリスのピースワーカーの職員でヨーロッパのNPの代表者であるティム・ウォリスおよびマレィケ・ジュンゲ、非暴力平和隊カナダの議長のカール・スティーレン、長年にわたり東ヨーロッパにおいてNGOと政府組織の両方で活動して来たカナダ人のコゥリ・レビン、そしてドイツ人の研究理事であり、「ピース・ワーク研究所」ならびに「非暴力紛争調停」(www.ifgk.de)にも関係しているクリスティーン・シュバイツァーです。

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【主な結論】

第三者がなし得ることは、平和を求めている人々を支援することであり、第三者によって選択されるアプローチと戦略は、この原則を考慮して判断することが望ましい。究極的に紛争を解決できるのは、紛争の中にある人々だけなのです。「現地のグループのための環境をつくりだすこと」というNPの使命声明は、この見方を反映しています。

  • まずはじめに必要性があります。一方でいろいろな平和チームや市民平和活動プロジェクトを、他方で国連や他の国家派遣団の中での民間人職員の活用の両方を調べて見ると、紛争地域で活動することのできる人々が数多く必要とされていることは明らかです。国連とOSCE(全欧安保協力機構)は両方とも、使命を果たすための適任の民間人職員の新規採用と維持の問題を抱えています。平和チームと「市民平和活動」の代表者たちは、活用できる人材が得られるならばもっと多くのプロジェクトを設立できただろう、と語っています。ヨーロッパにおける「市民平和活動」の運動は、紛争転換のための活動範囲を広げようとしている開発援助と人道援助組織と同じように、その必要性を表明しています。
    もっとはっきり言うならば、「安全」を保障するためには、軍事的要素を持っていない純粋な民間人の派遣団を必要としているのです。その理由として、紛争しているどちらの側も軍事的平和維持軍を望んではいないこと、武装した平和維持軍にいつも参加している国連加盟国による政治的意図ならびに必要な資金供与は思慮に欠けていること、あるいは状況分析では軍隊の駐留は、国際的派遣団が到着する前に兵士たちによって心の傷を受けた住民にとっては、不信と恐怖を引き起こすものなのであろう、ということを示していること、などを挙げることができます。
  • 市民による介入というのは夢物語ではありません。政府側ばかりでなく非政府側からの大規模な派遣団の実例 (たとえば、ブーゲンビリヤでの「平和監視グループ」、またある点ではOSCEのコソボ査察派遣団) がいくつかあり、そのような派遣団が可能であることを証明しています。
  • 紛争状態の中での大規模な第三者の非暴力介入チームについては、いろいろなアプローチや可能性があります。二つの主要な戦略は、平和維持および平和構築です。その一方、紛争解決(紛争当事者たちが取り決められた解決策を見つけ出すのを手助けすること)の方は通常は、政治家や外交官あるいは必要な信頼性を築き上げている少数の特定のNGOの課題です。ほとんどのNGOは、紛争解決に掛かり合うとすれば、活動している社会の中で中間レベルあるいは草の根レベルで活動することになります。
    この調査では、平和維持活動のいろいろな様式を区別しています。すなわち、同行、駐在、監視、介在、そして国際社会による支持です。これらの多くは、もし交戦国によって平和が維持されない場合に、国際的圧力およびその他の考えられる不利な結果、あるいはそのいずれか、を招くという脅威に根ざしています。しかし、暴動の場合に日々の駐在と介在による平和構築を組み合わせたシャンティ・セーナ(訳注:ガンディーが始めた平和隊)の例が 示しているように、これらのすべてが必要だ、ということではありません。非暴力の平和維持は、国際的圧力だけではなく他の要素と他の勢力源を頼りにしているかもしれません。平和維持者を尊重して、その結果暴力の行使をやめることは、国際的影響力(あるいは軍事的平和維持の場合は、武装している平和維持者)ばかりではなく、多くの要素に左右されます。すなわち、アイデンティティ(年齢、性別、生国、宗教その他)、役割とあなたが代表している組織、法律と伝統、個人的関係を作り上げることにより自分自身のことを知ってもらい信頼してもらうこと、筋道の通った論議と道徳的アピールを用いること、あるいは通常とは違う行動(たとえば、互いに敵であることが知られている国々から来たメンバーがチームを組んで活動する)を示して実例を示すこと、すべての当事者との協力、たとえば、紛争中の当事者たちが求めている品物あるいは恩恵を授与したり保留したりすることにより、圧力を掛けるための影響力を持つこと、その国の中の世論へのアクセスを持つこと、そして創造的であって、かつ暴力の脅威に直面した時にも屈しない、という両面を兼ね備えることなどです。
    調査結果は、平和構築へのいろいろなアプローチと戦術の非常に多彩な状況を示しています。小規模な介入者による典型的な行動には、多民族的あるいは多民族共同体的社会活動の支持、現地のグループと市民社会の発展、紛争に関連する技量についてのトレーニングと教育、心理社会的支援、「社会的和解」のプロジェクト、緊急支援とリハビリテーション支援、開発援助、選挙監視、戦争犯罪の調査を含む司法システムへの支援が含まれています。大規模な派遣団は、全体として総選挙への下準備となることを通常は意味している民主化のプロセスに関する監視とアドバイスや、現存している政治的制度の修復についての支援、国民的和解の促進、選挙プロセスの状況と段階の監視と検証、プロセスについての技術援助の調整、選挙プロセスについての民衆の教育、草の根の民主的制度とNGOの進展支援、独立メディアの支援、人権についての促進と教育、人道的援助(食糧やその他の緊急救援支給)の受け渡しのような人道的課題の管理、難民送還計画の実行、追い払われた人々の再定住、元戦闘員の社会への再復帰の援助、警官隊のための、そして時には軍隊の再構築のための、トレーニングおよび支援への寄与あるいは実施のような、より複雑な課題に取り組むことができるでしょう。
  • 思い起こすべき重要な教訓は、三つの戦略がすべていかなる紛争にも同時に用いられるべきである、ということです。平和構築を伴わない平和維持は多くの場合まったく無益です。紛争解決と平和構築の必要な状況が根付く前に平和維持者が撤退することは、その結果として暴力をともなう無責任な行為でありましょう。しかし、これらの戦略は手を取りあって進めることが必要ではありますが、同じ人たち/組織によって実行する必要はありません。
  • 非暴力紛争介入は、以下の条件が満たされている時に、紛争に対する影響がもっとも好ましいものと思われます。
    • 平和への関心があること:
      停戦の後で設立された平和維持派遣団の中で絶対に必要である、と思われる一つの条件は、紛争当事者が明快に平和を望み、締結された協定を遵守しようと望んでいることです。当事者の一方が平和への関心を持たない限り、その当事者の行動に影響を及ぼす手段は限定されます。
    • 国際的圧力に対する感受性:
      もし停戦協定がなければ、あるいはもし強力な略奪者の要素があるならば、そのような状況下である程度の成功をおさめるための条件は、その紛争当事者が国際的支持に関心を持ち、なにがしか最低限度の社会的地位を維持していることです。彼らは国際的意見に注意を払う必要がありますし、あるいは、影響に対して鋭敏でなければなりません。もしこの要素があるならば、一方の当事者が平和に関心を持っていなくとも、平和維持派遣団にチャンスがあるかも知れません。この問題は、もしその当事者がコロンビアでの犯罪のように組織的犯罪と密接につながっていて、暴力が私的目的になった時には特別な重要性を持ちます。しかしそれはまた、1990年代の何年にもわたるユーゴスラビアのように、あるいはスリランカで今も続いている「タミールの虎」のように、武装した政治運動あるいは国家全体が国際的圧力に対して反応を示さない時には問題です。
    • 武装勢力が暴力を行使する状況にないこと:
      どのような非暴力介入の前にも、武装勢力は国際的反対にもかかわらず殺戮を実行する可能性があるかどうかについて、充分な予測、検討がなされていなければなりません。もし武装勢力が、非暴力の状況においても殺戮を実行する可能性があるのであれば、殺戮を阻止するために非暴力的手段を用いることは機能しません。
    • 紛争の形式と激化のレベル:
      戦争を止めるよりも暴力を防止する方が容易だということが良く知られている一方、ほとんどの紛争介入派遣団は停戦に到達した後で行われていることもよく知られています。しかし、長引いている戦争や紛争では、特に戦闘がある地域に限られている所では、戦争の継続中に、非暴力介入派遣団の可能性と役割があります。
  • いま軍事に支出されている税金を、同じような役割を果たす非軍事組織のために使用できないという理由はありません。有用な装備を非軍事組織に使用させることはできるはずです。ボランティアをリクルートして、必要なスキルを修得させることもできるはずですし、多くの人々が、短期間の予告で自分の職場を離れて、市民平和組織のメンバーとして1、2年派遣可能になるように、法整備をすることもできるはずです。あるいは、もし常時派遣可能な専門家からなる組織をつくれば、予備役によって補充するだけで充分な体制となります。

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【調査報告書の概観】

第1章 非暴力平和隊の相対的位置づけ

本章は、非暴力介入の枠組みに関連するいくつかの主要な概念を紹介しています。それらの主要な概念は、非暴力、紛争の形式と原因、紛争の激化と沈静化、紛争の転換と紛争介入へのいろいろな障害と当事者ならびに戦略です。三つの基本的戦略は、平和構築、平和維持、紛争解決に分けられます。ここで、紛争介入を正当化するという問題が起きて来ます。正当化の一般的よりどころは二つあります。それは国際法と倫理です。この章は、非暴力介入プロジェクトの歴史についての手みじかな紹介で終わっています。

第2章 介入における戦略、戦術、活動

本章は、非暴力あるいは市民による介入の成功した類型を記述し、明らかにすることを目的としています。ここでは、様々な類型の介入の特質と目標、活動と影響を取り扱い、それぞれの類型の成功したプロジェクトあるいは派遣団の状況を、教訓として定式化することを試みています。

  • 平和チームおよび市民平和活動
  • 開発および人権援助組織
  • 大規模な民間人による政府派遣団とNGO派遣団
  • 軍隊による介入

NPが明言している目標の一つである軍隊機能を市民活動に置き換える問題は、別の節で扱います。もう一つの節は非暴力の失敗の事例を検討します。

この章を締めくくるに際して著者たちは、さらにいくつかの非暴力平和隊のための全般的教訓を定型化しようと試みました。NPのために引き出された結論は、大規模な非暴力介入の要請があるということであり、NPはその目標と焦点(戦略)に関する方針決定をしなければならないだろうということです。NPをさらに有望にすること、あるプロジェクトが紛争に対して影響を及ぼすような適当なチャンスを持つことなど、いろいろな要素が概説されています。紛争当事者たちが平和への関心を持つこと、そして国際的圧力への感受性があること、がそれらの要素の中の2点です。

付属文書は、ヨーロッパの市民平和活動、他の平和チーム組織(年代順)、平和隊提案、自発的に形成されたグループによって計画された介入プロジェクトおよび二つの国連派遣団についてのより詳しい記述など、例の中に含まれた平和チーム組織を表記しています。

第3章 現地で関係をどのように築くか

現地における有効性は、他の政府組織あるいは非政府組織との間の、そして非暴力平和隊の管理組織のメンバーとの間の、そのチーム自体に対する前向きで創造的であり有効な関係によって決まります。本章には、これらの関係が他ではどのように扱われたのかについての例を含んでいます。それは、類似の使命を共有するが、NPの大規模な介入作業に直接に転移するにはあまりにも小さな平和チームの現地における関係、および同等あるいはそれ以上に大きな組織だが、目的と沿革の面で類似点の少ない組織の現地における関係、からいくつかの結論を引き出しています。付属文書は、ヨーロッパ市民平和活動ネットワークで討論された市民平和活動のための指導原理です。

第4章 非暴力平和隊のメンバー

本章は、NPメンバーの新規採用と選抜に関係するいくつかの問題を扱っています。現在活動中の団体の慣行からスタートして、著者たちは最初に任務の期間、報酬、手当に関する慣行について概説しました。ついで著者たちは応募者たちが持っていることが望ましい資格と技量、新規採用の戦略の要素ならびに適用/配置の過程の要素についてのリストを提案しています。

付属文書は、国連および開発援助団体からの新規採用の情報を含んでいます。付属文書3は、著者らが「ATPサイクル」(評価とトレーニングと配備のためのモデル)と呼んでいる 提案モデルです。

第5章 トレーニングと準備

本章は、いろいろな介入団体のトレーニングのやり方を記述しています。本章では、NPはトレーニングを評価とは分離することが望ましい、と推奨し、さらにそのプログラムの中に一般的トレーニングと派遣準備の両方を含むことを推奨しています。現在行なわれているトレーニングをどのように組織し利用するのか、派遣団の準備はNP自身によっておこなうことが望ましいのかについて違う意見がありました。

付属文書は、いろいろなトレーニング・プログラムの例をあげ、世界のいろいろな地域でのいろいろなトレーニング実施機関を列記し、カナダにあるトレーニング実施機関について詳細に記述しています。

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