NPNPの活動

非暴力平和隊実現可能性の研究【第3章 第2節(1)】

第3章 現地諸関係の最善の実践例

ドナ・ハワード、コーリー・レヴィン

3.2 平和隊

3.2.1 チームで働き生活すること

3.2.1.1 チームの構成

チームの規模
チームを派遣する団体は、ほとんどの場合、資金面、派遣できる有能なボランティアの数の制約があり小規模チームにならざるをえない。しかし、少人数のボランティアの方が活動に向いていると判断されるケースもある(BPT、WfP等)。

WfPの場合、最大でも現地には40名の長期メンバーの時もあった。現在は一国あたり4人である。このような急激な変化は資金面の制約と重点の変更によるものである。当初の目標は、チアパスで何が起こっているのかを見るため出来るだけ多い人数を置くことにあった。今は、長期派遣者は、調査、分析や執筆を主にやっている。SIPAZは一時期チアパスチームとして10名いたが、資金の縮小のため現在2名のみになっている。

1チームの人数は2人から8人と団体によって異なる。オーストリア・ピース・サービス(APS)は1名のみ派遣するケースもあり、SIPAZやPax  Christiは1チーム2、3人、OPTは3人から5人、BPTは1人から4人。CPTは現在、現地チームの人数はそれぞれ4、8、7、3人であり、 PBIのチームの人数は2人から25人の規模である。

現在、現地にいるボランティアの総数は2名から50名である:SIPAZ 2人、CPS Forum 6人、 APS 11人、CPT 21人、PBIが50人以上。

PBI進行中のプロジェクト4(コロンビア、ハイチ、チアパス、東チモール/インドネシア)、CPTも4(チアパス、ヘブロン、New Brunswick、コロンビア)。オシエクは一つのプロジェクトに5チーム投入している。

チームメンバーの年齢
PBI年齢の下限を25歳、SIPAZは23歳である。大多数のチームは21歳以上である。BPTは“まだ大人に成りきっていない”と言う定義で年齢は明確にしていない。チームメンバーは20歳代から40、50歳代であること。WfPのチームの平均年齢は27歳である。CPT Corpでは、現在、7名いる専従メンバーの内、2人は30歳台、4人は40歳代、3人は50歳代2人は60歳代で70歳代が1人いる。最低年齢は21歳である。

文化/国籍/性別
平和隊の国籍を見ると、一方ではWfPやCPTのように(意識的に)米国とカナダだけのところがあり、その反対にPBIのように17の国々から参加しているところもある。CPT Corpでは6名がカナダで13名が米国である。CPTの各チームのメンバーは注意深く選ばれ良くバランスがとられている。メンバーは資質(指導力等)、年齢、性別その他のチェック項目で評価される。性別以外の要素のバランスをとり選べる対象が限られてたため、チームの構成が女性1人に対し男性4人となったこともあった。

BPTチームは大半が欧米からでありオーストラリアから1人で、プロジェクトを実施している国に住んでいる人は除かれる。BPTでは、男性より女性のボランティアの方が若干多い。オシエク平和隊の各チームは少なくともセルビア人1人、クロアチア人1人その他の国籍のもの1人を含んでいる。メンバーはオーストリア、ドイツ、英国、ユーゴスラビア、ルーマニア、米国から来ている。

SIPAZのチアパスメンバーはフランス、オランダ、ペルー、ウルグアイ、米国、カナダ、ドイツ、イタリア、エクアドル、メキシコから成っている。ドイツのCPS管轄下の幾つかのプロジェクトでは、紛争地域の国籍のメンバーで遂行されている(Living Without Armament in VojvodinaプロジェクトやベルグラードのフォーラムCPSプロジェクト)。

多様性
チームの多様化は複雑で制御しにくいように思えるかもしれないが、チームを良くすることに貢献すると誰しもが認めている。CPTは21歳になろうとする一人のボランティアと70歳代の女性がいることで、年齢構成でもっとも多様化された記録を持つ。すべてのチームは男女のバランスに努力している。

民族的に多様なチームを編成することは、言語、安全、効率或いは公正な司法等も勘案しなければならないので一層難しい問題である。CPTチームのRey opezはフィリピン出身でハイチの文化に溶け込み効果的であったし、PBIの日本人はスリランカで効果的であった。しかし、PBIのスリランカの或るチームは過去のインドの植民地支配の関係からインド人はチームに加えない方が良いといっていた。

2章2項2でふれたエルサルバドルでのKaren RiddとMarcella Rodriguezの逮捕の件を思い出してほしい。二人の女性(Riddはカナダ人、Rodriguezはコロンビア人)は、一方が類似した言語と文化を知っており、もう一人は白人であるが故に安全であり且つ、相方も守ってくれるのではないかーと言う意味で理想的な組み合わせの例である。エルサルバドルのあの事件の折、拘束された37人の欧米人の内、75%は24時間以内に釈放され殆どがそれぞれの大使館に引き渡された。しかしながら、17人の中南米人については、60%もの人が4日間以上拘束され、且つ、正式な手続きもなく国外追放となっている。Riddと同行していた為、Rodriguezはラテンアメリカ人で唯一人その日に釈放された。

PBIは設立当初から多様化と人種的偏りをなくすことを目標にしていたが、その目標は今日まで達成されていない。PBIグループがある国以外では隊員募集のシステムがなく、PBI-USAは評議会に非白人の席を用意しているが、それをうめることが出来ないでいる。アフリカ大陸での活動が成功していない為である。

WfPの初期の段階では、目標の一つであった米国の方針を満足させる為にチームは米国人でなければならないと決められていた。しかし、Phyllis  Taylorは、例えばイスラエル/パレスチナのように、政治的中立性を明確に打ち出す為には平和チームは確実に多様化されていなけらばならないと信じている。同じことは、オシエクチームにも言えることだとIFORのPete Hammerleは言っている:各チームにセルビア人とクロアテイア人両方が居ることが必須であると。

アメリカン大学の国際平和と紛争解決関係助教授Mohammed Abu-Nimerは、NPチームは、その目標の表明として、文化的に多様化されていることが不可欠であると言っている。彼は、チーム内で言語が意思疎通の障害になるとは思っていないー言い換えれば、チームは、例えば、英語やフランス語に習熟しお互いに意思疎通するスキルを持っていなければならない。そのため、訓練にはチーム内での異文化理解や人間関係から生ずる争いの解決などが含まれなければならない。

3.2.1.2 意思決定、意思疎通、特殊技能(専門分野)SPECIALIZATION

コンセンサス造りの過程は全員一致を目的とするものでもなく、下される決定について全員が完全に満足することでもない。それは全員の理解と支持を得る為である。

調査した全てのチームは意思決定を行う際、チーム内のコンセンサスに信頼を置いている。コンセンサスを得るための十分な時間がない時、緊急事態にどう対処するかについて、全てのグループがそれなりの計画を持っているわけではない。
SIPAZは、組織の全てのレベルでコンセンサスのモデルを持って活動している。チームにはコーデイネーターがおり、緊急事態には彼の指導力が尊重される。全ては役員会(評議会)の決定に委ねられる。

WfPのチームや派遣団はコンセンサスにより決定するが、危機の際は、リーダーが決定を下しても良い。Managuaでは現地のスタッフが派遣団やチームに対し戻るよう要請することもある。

PBIにおいては、コンセンサスは最重要視される一つである。それは、組織のあらゆるレベルにおいて制度化され(義務付られ)求められている:“PBIでは、コンセンサスによる意思決定は唯単に役に立つからだけでなく、又、組織としての使命と目標を達成する為の多くの有効な手段の一つと言うだけではない。むしろ、組織と所属するメンバーが実現しようとしているある種の社会を分かりやすい形で表現し、更には、予知的に具現化して見せるものであると理解されている。”時間的制約がある場合、民主的な投票の制度もある。最高の意思決定機関は3年ごとに開かれる総会である;その間は、国際評議会が権限を持つ。

BPTのクロアチア・チームの二つの事務所は、2、3ヶ月に一回集まって、いわゆる“Otvoreneサミット”を持つ。彼らは第三国に集まって、それまでの活動を評価し、次の期間の戦略を更新しそれぞれのチームメンバーの人事評価を行う。そして、調整委員会に提出するレポートを作成する。全てのBPT チームは同じような会合を持っていた。

CPTの各チームは、コーディネーター1名、書記1名と各専門家からなる。チームは全員意思決定に参画する。チーム全員と協議する余裕がない緊急事態においてのみコーデイネーターが決定を行う。CPTの訓練では、現地派遣要員は、“勤務中の意思疎通のやり方のスタイル・プロフィール”と呼ばれる勤務スタイル評価を受けることが要求される。この評価手法は“自分自身や他の人々或いは物事を観察し、思考する際の各人の特徴”を定義づける“スタイル”の判断基準となるものであり、ストレスのある時と無い時でどのように仕事をするかを客観的に記述し分類するものである。CPTの局長Gene Stoltzfusはこの情報を用いてストレスの多い時でも指導力を発揮できる者をチームに加えてバランスの取れたチームを編成している。少なくともチームに一人“目的に向かい/指示を与える”者がいることが必要不可欠であることが分かった。

それぞれの得意分野は、ボランティアが分担するというよりも、しばしば、チームの中で彼らが持っている得意なスキルを生かして提供される。APSは、例えば、ability in editing or dramaは必要になることがあるが、それらはチーム内で育成されると報告している。

NPのチーム構成や意思決定の先例は、まったく同質の小さなチームの調査事例に頼るわけには行かない。従って、何故うまくいかなかったのかの前例を見てみよう:より規模の大きい多民族からなるグループで極限のストレスと機能不完全なメンバーが如何にコンセンサス形成の妨げとなるか等。

ガルフ・ピース・チーム・キャンプのメンバーは、グループが小さかった時は、コンセンサスの手法を上手に活用していた。しかし、人数の増加と共に、英語を殆ど或いは全く話せない人たちがでてくるとか、会議のあり方に問題があるなどの理由から、コンセンサス形成に参加する人は少なくなった。そこで、約70名からなるメンバーが、それぞれが推進委員会を持った幾つかのアフィニティ・グループを作った。しかし、コンセンサスが得られない時に意思決定をどの様に行うかについての解決策は見出されなかった。

ガルフ・ピース・キャンプでは、アフィニティ・グループは余り機能しなかったのである。アフィニティ・グループ間の共通の言語がなく、アフィニティ・グループについての経験が不足しており、或いは非暴力の活動の経験がなく、共有する文化的アイデンテイテイや思想的に共通するものもなく、そして、驚くほど多くの人がserious psychological needsを持っていた。このような状況にもかかわらず、Robert Burrowsは“歴史的に見て、非暴力活動を有効的に行う為には、アフィニティ・グループが組織単位として優れていることは明確である。”と結論付けている。
同様の問題はキプロス再定住プロジェクトでも経験された。多国間にまたがって活動するチームの性格が、目的、アプローチ、役割その他様々なテーマについてのコンセンサス作りをより困難にした。

ミル・サーダはプロジェクトと言うよりはむしろ事件(行事)であったので、望ましい意思疎通や意思決定のあり方を見つけるには時間的制約があったが、にも拘らず、この事件での様々な困難さは、NPにこれらの分野についての教訓を示唆している。主要言語はイタリア語で、会合ではたえず翻訳されたにも拘らず、非イタリア人は不利であった。メンバーはアフィニティ・グループに分けられたが、代表者会議は、権限を委託されておらず、どちらかと言えば議会のよう機能であり、代表者会議の決定を覆す主催者側の意向に従った結果、組織は民主主義的な機能を停止した。

3.2.1.3 滞在期間、引継ぎ、(新しいメンバーの着任時の)オリエンテーション

グァテマラでの同行の要請がピークに達したとき、PBIは長期滞在メンバーと短期護衛の2段階構成の実験を行った。数百人2週間或いは1ヶ月の護衛要員を募集し現場に送り込み、相手方との接触を維持し、現地情勢を分析し、仕事の優先順位を決定する等の任務を持つ長期滞在チームに合流させた。長期滞在チームメンバーは、護衛ボランティアにオリエンテーションを行い支援する責任を持つ。

短期護衛の為のちゃんとしたオリエンテーションのマニュアルがある。ボランティアは定期的に会合を持ち現地情勢やリスクを分析した。ボランティアの顔ぶれがどんどん替わる中で継続性と組織として記録を維持する為に、脅し、監視、或いは偶然の出来事の連続などの記録が保持された。PBIは、1989年、短期派遣者が十分な準備がなされていないこと、そして、長期滞在者にとって大変な重荷になっていた為、短期護衛の制度を打ち切った。これにより毎年、100名のボランティアを失ったが、“PBIとしては、現地での相互信頼関係、質の高い判断力、分析力、チームの一貫性とaffinityに対する強い意識等を維持することにより関心を持っており、短期護衛によって、それらが壊されつつあったからである。”

リアム・マホニィは短期のボランティアにリスクがあると考えている。ゆとりを持って訓練を受けることが出来なければ間違いを起こし易く、危機を招く可能性があり組織の評判を傷つけることにもなる;文化的無知は相手を傷つける行為にもなり多分、同行しているグループとの信頼関係を傷つけることになる;そして短期の滞在は自然と好奇心を高め、同行者としての役割に必要な相手との一定の距離感を越えてしまう。マホニィは、「成功する」短期、長期ボランティアの組み合わせは、継続して情勢の分析を行い、相手方との長期にわたる信頼関係を築いている現地スタッフや長期滞在メンバーによる短期ボランティアの一定の指導が必要であると結論づけている。このような指導とともに、明確な行動についての指針、はっきりとした役割の定義、注意深いボランティアの選別が必要である。「全く上手くいかないのは指針やきっちりとした指導なしに単に短期ボランティアを送り込んだり、組織に全く所属しない経験のないボランティアが入り込むことにある。勿論、多くのボランティアはすばらしい成果(同行の)を挙げるが、例外が紛争解決当たっているその他全ての同行者達の信頼と働きを台無しにしてしまう。このようなリスクは指導や訓練によって少なくすることは出来るが完全に無くすことは出来ない。」

パット・コイは頻繁にメンバーが変わることはチームの全員参加型コンセンサス運営の能力を妨げマイナスの影響を与えるものと分析している。即ち、討議や意思決定の繰返しや効率の悪化を招き、コンセンサス形成の過程で苛立ちや不満を増長する。更に、チーム内の人間関係を阻害し、必ずとは言わないまでも、しばしばコンセンサスの過程で有害を及ぼしチーム・パワー・ダイナミックスを変えてしまう。

SIPAZでは滞在期間は1年である。WfPの場合2年、CPTは3年である。これら3つの組織ではかなりの確率で当初の任期の延長が行われる。 Sipazの1人のボランティアはもう4年になる;WIP理事Steven Bennettは今では殆ど募集の必要がなく又、極めて厳しく採用できていると言っている。Sandra van den Bosseは、新たなメンバーが到着した際の見過ごし易い問題の幾つかを明らかにしている;「メンバー交代の際のマニュアルがあるにも拘らず必ずしも遵守されていない。時には、任期を終えたメンバーが交替を渋り問題を起こす;又、ある時は、早く帰りたがり新しいメンバーをないがしろにする・・・・時には、新しいメンバーは自分は既に全部知っており指導(introduce)されることを拒絶する。」

CPTでは、専従メンバーと予備隊員の混成チームの場合は、現地への着任をずらすことが重要である。専従メンバーは3ヶ月滞在したあと暫く現地を離れ更に 3ヶ月滞在するとか、或いは、6ヶ月以上滞在する。時には、チームが2人の長期滞在者と2人から3人の予備隊員から構成される。

キプロス再定住プロジェクトのKate Kempによればプロジェクトの初期の段階では着任がずれるのは良くないとのことである。全員が同時に着任していれば、始めのオリエンテーションで問題点の議論がなされ、後々の諸問題が克服されていただろう・・・・多くの時間の無駄(そして混乱も)を無くすことが出来たであろう。
十分で行き届いたオリエンテーションは新しいメンバーがグループの目標と任務を遂行するに必要なスキルと情報を身に付けることに役立つ;仲間(neighbourhood)を紹介し、紛争やチーム内の連絡網を紹介する;“カルチャーショック”による混乱や情緒不安定を緩和し;新しいグループに加わるとき何時も生じる自己の見直しの過程をスムースに行わしめるなど。例えば、チームの任務が手一杯であったり内部対立があったりすると、しばしば、新しいメンバーに対するオリエンテーションは疎かになる。その結果、新しいメンバーが戦力になるのに時間がかかり、質問の応答に余計な時間がかかり新しいメンバー信頼の欠如から任務にもチームの意思決定にも十分な参画意識を持てず会合は非効率となりコンセンサス形成過程で妥協が図られることになる。

3.2.1.4 チームとしての一体感(Team Compatibility)と内部衝突(対立)

人は皆、それぞれの資質や、技術や能力を持っている。決意を持ってチームの一員として働く人達はお互いに補い合い又、影響を与え合いシナジー効果を出すものだ。この一体感(Compatibility)が平和部隊を構成する際の重要な規準になるのである。

Katarina Kruhonja

この点について、ここでは簡単に触れるが、NPの訓練計画のところで掘り下げて検討されねばならない。チームを派遣する団体(organization組織)は参加するメンバーの資質に大きく依存しているという事と、紛争解決、チーム造り、多文化に対する理解(配慮)当の特別なスキルは訓練期間中、もっと広範囲に教えられるべきである。国際的非暴力に参画したいという善意は、必ずしも、問題解決や関係つくりの為の対人折衝のスキルを共なっているとは限らない。訓練ではその点を考慮に入れなければならない。

John Heidは、ミシガン・ピース・チームに参画して全くまとまりのないことを知り次のように言っている。「自分の持っていない資質を持った様々な人が参画して来たが、彼らはどのようにして共同体を作ったらよいかを知らなかった。」

あるメンバーが言うには、今までに会ったことのない人や普段ならば付き合いをしないような人達と一緒に生活し働くことは、耐え難いことでお互いに悩まされないでおられるごくまれな機会の時だけ楽しむことが出来ると。

チームメンバーは時々、内部のチーム・ダイナミックスの為に“燃え尽き”現象を経験する。このような時には、チームは現場での仕事に、たとえそれが事務的作業であるとしても、エネルギーの大半をつぎ込むようにして、とにかくチーム・ダイナミックスについての会議だけは避けた方が良い。このことは、このような時に着任する新しいメンバーのオリエンテーションに影響を及ぼすことになるが、チーム内に実際に論争がある時には、新しいメンバーには速やかに立場を鮮明にさせたほうが良い。

CPTは内部の諸問題に対処する方針を明文化しており、以下に参考事例として提示する。

CPT内の紛争と苦情処理についての手順

3.2.1.5 行動規範 (Behavioural Ethics)

チームにおける行動様式に関しては、定められたルールとかチーム内で行われていることについての記録とか、その様な文書になっているケースは極めて少ない。幾つかの団体、例えばSIPAZ、は申込書類による審査と訓練を厳しく行うことにより現場における不適切な行動を起こすような問題点を見出すことが出来ると信じている。行動規範は求人広告の段階から良く分かるようにする必要がある:「SIPAZのボランティアの一員として、あなたは簡素な生活を心掛けあなたが出会うメキシコ人と生活、仕事を分かち合い、そして、彼らの文化と信仰を尊重しなければならない。即ち、新しい考え方、文化、機構、生活環境等にあなたは順応する必要がある・・・・」平和隊の団体は、志願者を受け入れる前に彼らを訓練するが、それは様々なルールを強要するよりもむしろ、彼らの判断のあり方を評価する機会である。

SIPAZメンバーの場合、厳密な選別に続いて3ヶ月間の試用期間とその評価が行われる。Poen理事によれば、度々、その最初の評価の段階で、どうも上手くいっていない事が明らかになったと言う。しかし、誰一人チームから外されたことはなかった。むしろ、訓練の後ボランティアと評定者が配置が適切でなかったと合意したことが2度ほどあった。

しかし、BPTは以下のような書かれたルールを持っていた(BPTのConduct Policyについては4章5節で議論する)。

BPTのルールと指針(ガイドライン)

  1. ペアで出かけること
  2. 一人は基地に留まる事
  3. 居場所と滞在時間を明らかにしておくこと
  4. ファイル、資料等を安全な場所に保管しておくこと
  5. 情報を漏らさないこと
  6. 思慮深い判断を行うこと
  7. ボランティアは任務期間中は他の人や団体のために働いてはならないし他のグループのために資金集めをやってはならない
  8. ボランティアは、BPTでの任期終了後1ヶ月は同じ地域で他の団体のために働いてはならない
  9. 1週間に1日、1ヶ月に更に2日の休暇をとること
  10. 我々が問題を解決するのではなく、地域の人々が問題を自分達で解決できるよう支援する為に来ているのである
  11. 彼らに何をすべきかを指示することが我々外国人としての使命ではないことをわきまえ、又、“何かしたらどうか”と言う西欧的な発想に対して十分に注意すること
  12. それぞれ行動するに際して、その行動がボランティアにもたらすであろうリスク、BPTがその国から撤退させられることになるであろうリスク、共に活動している地域の人人にとってどういう意味を持つか、長期的な影響はどうかなどの評価をがなされなければならない
  13. 決して“何かをしなければならない”と言うプレッシャーやに負けてはいけないし、地域の人々の意思に反して行動してはならない
  14. 実現できるかどうか不確かなことは約束してはならない
  15. 政治的に立場を取らない(non-partizanship)規則を守ること。BPTのオーガナイザー達はボランティアが次のようなことをしないことにより特定の団体/グループのために働くのではないと言う中立性を明確にした
    1. 助言を与える
    2. 依頼主の事務所の周辺を必要以上にうろうろする
    3. 手紙を翻訳し、電話をかけるなど
    4. 別の建物内に事務所を持つ
    5. チームのメンバーとして行動する
    6. 政治的な発言は避ける
    7. 異なった多くのグループ、諸団体とのコンタクトを保つこと
    8. 外国人として中立であることを強調する
    9. 相手の言い分を聞いても同意したり、支持したりしない
    10. 個人的な極めて親密な関係を避ける

BPTの方針は、チームメンバーが時には翻訳したり車を貸したりすことはあっても、プロジェクトに関する任務外での地域の人たちに好意を寄せることのないよう配慮している。“男女関係になることを抑止しているが、それでもその様なことは起こり、3人のボランティアが現地の人と結婚した・・・しかし、地域の一般の人たちとの付き合いは、チームや活動家達の外にある世界を理解し又、そうした友人を作る為に奨励されている。”

Steve BennettはWfPチームでの個人的な危機が数多くあったことを認めている。団体は第一線でWfPを正式に代表する際のチームメンバーについての行動規則はあるが、人間関係についての規則はない。“チームメンバー同士の人間関係について規則を設けることは良いとは思わない”し、現地の人との関係について禁止事項などない。Bennettはチーム内で又、現地の人との結婚の例は数多くあると言っている。

チームメンバーの間で男女関係が生ずるのは普通で、様々な点でコンセンサス形成やチーム内の関係に影響を与える。殆どのチームメンバーはこのような関係を受け入れているようで、そうなると当然のこととしての部屋割りの変更にも快く応じるし、コンセンサスやチーム関係に関してなされる特別な要求も受け入れている・・・しかし、その様なことが何時もチームの全員によって受け入れられる訳ではない。

極端な例ではあるが、1993年の暮れスリランカチームの他の6名が全て男女関係になったときに残された日本人ボランティアが苦痛に苛まれた。即ち、その日本人は孤独となり、チーム内の関係が錯綜し、他の人たちは仕事やチームへの入れ込み方が足りないとの思い、そして、文化の違いに基づくモラルの問題であった。

グアテマラ同行プロジェクトのあるメンバーはボランティアの男性とマヤの女性との間の男女の関係について次のように言っている。“とにかく多い。そして、その様なことが起こるとマヤの女性はある意味でその社会から白眼視され、おそらく結婚することは出来ないであろう。”

行動倫理に関する問題は、大きなグループでしかも急いで募集したり或いは一つの団体の基準やスタイルで統一されていない場合に起こりやすい。一例は、 1993年のグアテマラ避難民の帰還の際の大量の同行者の場合である。要望に応えて世界中から何百人ものボランティアが選別されずにやって来たーーそしてその多くがどの団体にも所属せず、訓練も受けず或いは準備もしてきていない。

“同行は何時も最善の結果をもたらすものではなかった。ボランティアは彼等の間で些細な事で諍いをやめようとはしなかった。ボランティア達の間で、あのような短い張り詰めた期間で、文化的、イデオロギー的、戦略的な相違点を克服するのは困難であった。グアテマラ政府の難民弁務官は同行者が不法な薬物を使用し食料や毛布を盗んだと避難さえしたが一部のボランティアはその様なことも起こったであろうと認めている。”
或るUNHCR事務官はその状況やボランティアを次のように非難した。
“彼等は我々が支払ったバスに乗り、難民に支給されたマットで寝ている。彼等は難民用の食料を食べている。旅行者やヒッピーが活動に参加したようなもんだ。私は彼等が本当の意味での防波堤になっているとは思わない、何故ならば、まじめな話、彼等は勝手にやって来ただけで、どの団体を代表しているのか分からないからである。”

些細と思われるような判断でもグループ全体の評判を落とすことになる。中米に派遣されたWfPの或る指導者は、現地の慎み深い習慣に配慮して女性達にブラの着用と短すぎる短パンを使用しないよう指示を出した。にも拘らず、一人の女性が短パンでジョギングに出かけた。ある時は、WfP派遣団の一つである Wickenグループが秋分の日を祝って海辺でダンスをした。“仕事をしているときは、現地の歴史や文化に過敏な配慮が必要である!”とPhyllis Taylorは言う。

「市民平和活動ヨーロッパ・ネットワーク」は「市民平和活動の行動規範(Guiding Principles)」の検討を始めた。インターナショナル・アラートの行動規範にかなり影響を受けた行動規範の最初の草案が1991年に提案された。

3.2.1.6 ストレスの要因とその他の諸問題

現地にあるチームは次の要因でストレスが生ずる:

チームが経験し言及している最も頻繁に起こるストレスの原因の一つは限られたスペースに一緒に住み、仕事をすることである。SIPAZのボランティアはチアパスに事務所兼住居を借りた。国際コーデイネーターPoenは“それは前向きな経験であり、お互いに緊密になるが・・・その様に上手くいくことは極めて難しい。”と言っている。BPTのチームメンバーは非常に困難であると分かった。彼等は小さな家に住み応接間を事務所スペースとして使用した。 Sandra van den BosseはNPに次のようにアドバイスしている。“一つの家で仕事も生活も共にしないほうが良い・・・プロらしくやりなさい!”

チームの役割や役割の有効性、適切性について曖昧にしておくことは信頼を損なう。ミシガン・ピース・チームのJohn Heidは、このことを次のように説明している:
“現地に居るということは、being in a petri fish;あなたはその土地の文化に紹介され他があなたがどうなるかはまだはっきりとしていないのだ。我々は信頼に基づいて行動している;この仕事はロケット科学ではないのだ。”

資金が不十分で不安定であればチームを一段と仕事に追いたて機材を忙しく動かし続け費用を懸命に削ろうとする。“BPTでは殆ど何時も資金が不安定であり、その為ストレスいっぱいの会議が続きボランティアの意慾を削ぐこと甚だしい”とvan den Bosseは言う。

ガルフ・ピース・キャンプでは、チームの通常業務をしばしば妨げるような精神面での特別な手当てを必要としている人たちが極めて多く、ストレスが悪化していく状況であった。その様な極端な問題はNPでは選別淘汰されるだろうが、精神面での手当てを必要としている人たちがいることを理解し、それに対応していかねばならない。ヘブロンにおけるCPTの或るチームが大変苦闘していて、消耗しきった有様を述べている。しかしながら、本部からの助言もあり、実際はチーム内の一人だけ上手く機能していなく、それが彼ら全体に悪影響を与えていることが分かった。そこで彼等は早い段階でそのことに気づくよう指導された。

チームと送り込む団体は不必要なストレスを排除し、対処する手法を開発し回復と育成を支援することに積極的でなければならない。何が必要か気が付くのに困難であることが往々にしてある。グアテマラのPBIチームは緊迫した経験を経て“彼等は、自分達が支援しようとしているグアテマラ人と同様、自分達も国の犯す間違いや政治的脅迫が与える精神面での悪影響に脆いことを自覚して、チームの支援や精神面での健康に一層の配慮を行った。”

チーム内でのストレスは、出来るだけびっくりするような事を無くすことで、ある程度緩和することが出来る。PBIでは、短期のボランティアを募集する際、手紙を一緒につけて、彼らに承知させておく:

……困難な状況に対して十分に用意が出来ていなかった為に、多くの人が感情的な混乱を経験するのを見てきた・・・・我々は、我々の存在が暴力的な行動を阻止するとの保障はできない、むしろ、我々が望むことは、我々の存在が暴力行為の可能性を少なくすることである。我々と一緒にいる人達や我々に対する暴力の可能性は現実にありうるのであり、そのことを受け入れることが出来なければならない。多くの人々が考えがちだが、自分は安全であるとは思わないで欲しい・・・あなたの暴力的或いは逼迫した状況下での対応能力は、如何に真摯にあなた自身が危険の存在を受け入れ、その備えをするかに架かっている。

……国際監視者としてあなたが提供している防御それ自身が彼等が当面している危険と彼等よりもあなたのほうが安全であるとの不公平さを絶えず思い起こさせるものである。この矛盾に対する反応は様々であるが、正直な怒りや誤った対応として現れることがある。これらに対処するには辛抱と寛容が必要であり又、人権の為に戦う人は生き抜く権利があるのだという信念が必要であり、同行サービスは決して彼等の性格や緊迫したストレスの状況下での感情的な反応に頼ることがあってはならない。我々は、我々を喜ばし、我々の必要に応え、更には我々に注意を払うことなど彼等の責任でないことを肝に銘じておかねばならない。我々は彼らに役立つ為にそこにいるのだ。

遠くから見る限り、同行する事は素晴らしいくてロマンティックに聞こえるが、実際には厳しい仕事であり、要求されることの多いものである……ボランティアが当面する最も困難な問題の一つは倦怠である。この仕事はだれでも出来るものではない。あなたにとってやりがいの或る仕事であるかどうか前もって真剣に考えて欲しい。

目次 訳語・略語一欄 はじめに 第1章 第2章 第3章 第4章 第5章