非暴力平和隊実現可能性の研究【第5章 第3節】
第5章 訓練と準備
クリスティン・シュバイツアー
5.3 目標、中身、訓練機関
5.3.1 目標と訓練内容
規模の大小に関わらず、仲介組織が自分たちで訓練を行う場合の目的は一般に職員やヴォランティアが任務を遂行できるように訓練と準備をすることだ。つまり普通は訓練要素と任務のための準備の要素が混ざっている。時に任務の準備は基礎トレーニングよりもずっと重要だ。人道主義団体のICRCのような組織は自分たちの命令や目的の紹介と任務の準備だけに集中するかもしれない。
カート・SudmersenはCPSのカリキュラムを考えた一人だがトレーニングに重要な5つの能力を定義した。
- 暴力を減少させ個人の関わる対立と建設的に向き合うことができる能力(社会的振る舞いの改善)
- 紛争に対応し問題を解決するためにグループ全員の能力を最大限に生かし彼らと協力する能力
- 紛争を認識し分析する能力
- 紛争転換の標準化された方法を知り問題の紛争に適したものを選ぶことができる能力
- 個人的社会的職業的レベルで対立の仲裁ができる能力
目的と訓練の内容は意図したものとは少しずつ違っているかもしれないがほとんどは必要な資格を反映したものとなっている。強調するところが見方によって異なるかもしれないが。すでに述べたように大きな違いはそのトレーニングが具体的な配備のためのものか他の任務の人と合同で行うより基本的で開かれたものかということだ。例として、5つの目的を比較してみた。3つは公開で2つは特殊だ。
- ナヤラン・デサイはVedchhiの”Institute for Total Revolution”の所長だが、1960年代にすでに下に引用される非暴力の4つの目的を明確に述べている。
- 平和の証人はトレーニングと準備を結合している団体の一つだ。ニカラグアへ1980年代に送られたボランティアのための訓練マニュアルには6つのゴールが述べられている。
- ドイツのCPSの4ヶ月のコースは市民による平和活動に必要な一般的な技術取得が目的だが可能な限り任務の準備も含めるようにしている。彼らは7つのゴールを持っている。
- ドイツの国際的な訓練機関である、”Kurve Wustrow”は国際調停協会の非暴力教育と訓練のプロジェクトで密接に協力している。彼らは5つの中心となる目的と7つの訓練目標を定義した。一般の目的は
- 平和部隊での長期間の経験を積む
- 解放のために非暴力を使う
- 新しい状況と対応する中で創造を刺激する
- 参加者の必要性と専門性と密接に対応する
- 参加者が状況に適切に対応できる能力を与え、必要性を認知し訓練をそれに沿って調整する
- 赤十字と赤新月社の基本コースでは新しい職員を新しい仕事に現地の代表者として雇用し彼らの資格と技術を評価する。彼らは紛争や紛争仲介に特化していない。
この比較によってどこに重点を置いているかが明らかになっている。個人的な成長や非暴力なのか、または特別な技術や知識を教えるのか、ということだ。
表5.1 ICRCの基本的な目的と比較した場合の非暴力訓練組織の目的の違い
Institute for Total Revolution (1965) | CPSコース ドイツ(AGQ) (2000) | Kurve Wustrow; 国際訓練 (1998) | 平和の証人 (1985) | ICRC基礎訓練コース (2000) |
非暴力促進のための能力向上 | 個人的な成長 | 参加者の長所及び弱点を認識させ、任務の優先順位の確認をする | ||
参加者が非暴力に対するより深い理解を得る | 意識して姿勢と方法を理解し実行する(非暴力) | 我々の姿勢、考え方実践における非暴力へのより深い理解を養う | ||
平和創造に貢献しコミュニケーションの確立と平和構築の方法を促進する(紛争転換) | 理解の共有と団結力empowermentを得る | 一体感と祈りと非暴力の感覚を得る | ||
紛争を分析し理解し任務を果たす(分析) 社会の発展と発生を理解しそれらに働きかける(分析) | ||||
非暴力紛争仲介に関連する技能を発達させる | ||||
参加者が戦争や内戦や武力紛争で実際に直面する直接仲介や非暴力行動の問題や状況を見つけ検証する | ||||
非暴力を通じての紛争解決の民主主義的な指導力の訓練 | グループやチームで協力する(グループ適応と専門技術) | 効果的で賛成を得られる意思決定の能力 | ||
性の問題を認識し、ヴォランティアの実践で適切な目標を設置できる(分析) | ||||
異文化間の相関を理解し考慮に入れることができる(紛争転換) | 活動地域の社会的政治的な状況を把握し違いを尊重した上で批判することができる | |||
将来非暴力活動参加者を紛争地域や戦争地帯の仲介役としての第三者となる様組織できる | 柔軟性や調整の必要性を理解しつつチームが何をしたいのか(Ideas)(ideaをどうするのか書いてないので訳せません) | 参加者に派遣団の中で有効に活動するための知識と実践ヒントを与える | ||
個人や団体での活動の際の技術を身につける | 専門技術を使う(グループ適応と専門技術) | 紛争地や惨劇や開発の中で参加者が出くわすかもしれない問題点や挑戦を話し合う。問題やジレンマの発達や除去に関する技術を向上させる | ||
健康でいる為の知識 | ||||
WfPを正しく理解する | RCとRCの組織に対する理解と活動の信任 | |||
その国や紛争地域の状況や条件を理解し尊重する(特別な状況) | ニカラグアの歴史、政治、言葉、文化、の基礎理解とアメリカの介入 | |||
参加者と国内の社会にRCとRCの派遣が適当であるか評価する機会を与える |
5.3.2 コースの長さと構造
近年発展している長期間のコースのカリキュラムは異なるものが存在する。その内の2つについて述べる。
クリスチャンカウンシルスウェーデンでは8~12週間の非暴力平和活動に対する訓練コースを設けているが、それらはスウェーデン軍事大学、Uppsala 大学、Osjikの非暴力センター、バーミンガムの「紛争への対応」からの様々な講師によるそれまでの経験に基づく12のセミナーやセッションからなっている。
ドイツの社会的防衛連盟は1996年にCPSでの1年間のカリキュラムを発表している。このコースが先に述べた4ヶ月コースの土台となっている。
これらの教育過程を発達させた組織は全て、開始後に期間の縮小を余儀なくされている。
一番長い期間でドイツのCPSの4ヶ月(11週間)のコースだ。スパイラルカリキュラムという、1つの話題が何度も登場する方法を用いており、大人にはこの方が適していると仮定して決めた。4つの局面から訓練は導かれる。
- カリキュラムの中で定義される議題の指導
- 参加者に必要とされる事柄と経験についての指導
- 参加者の今後のプロジェクトに対する指導
- 方法についての指導
以下のように決められている。
表5.2
5週間 | 基礎訓練 |
---|---|
2週間 | ヨーロッパのプロジェクトの視察 |
1週間 | 休み |
1週間 | 評価 |
4週間 | 強化トレーニング |
2×1週間 | 特別コース |
1週間 | 評価 |
言語は元々はコースに含まれていたが今は分けられている。しかし幾つかの派遣組織は4週間かそれ以上の言語強化を訓練機関のファシリティーを借りて小人数、または個人授業で行っている。
Stadtschlaining で行われるIPTコース(4週間)はもっと簡単な構成だ。2週間の基礎コースに2週間の専門コースが続く。
表5.3
2週間 基礎 | 2週間 専門 |
---|
短いコースはたいていこのような構成は持たず、たいていは参加者の必要性に応じて作られた項目に対応して一つ一つこなされる。極端な例では参加者は可能性のあるテーマのリストを渡され、どの項目にどういう順番で挑戦したいか尋ねられる。
幾つかの非暴力トレーニングはPBIとBPTのように参加者に小さなグループ(基本となるような、密接なグループ)を訓練時に作ってもらう。これらのグループによって、参加者は(何かを)グループと共有する機会を与えられ、グループになることで訓練しながら評価も同時にできる。
訓練中に一緒に生活することは現地でのチームワークの練習になると重要視するところもある。例えば料理や家事を分担するなど。
5.3.3 一般訓練の内容、任務の準備、専門化
付録にヨーロッパでの幾つかの訓練プログラムのリストを付けた。一大陸の一つの地域だけに集中しているが、プログラムは組織のスタッフやボランティアに対する訓練は(問題解決に対する)異なるアプローチを反映してはっきりとした違いを表している。主な違いは、
- 非暴力の取り扱い。幾つかのNGOは明確な非暴力を背景にそれを強調するし、別の組織では、様々な議題と共に非暴力を取り扱い(ドイツのCPS、「紛争への対応」)、また別の組織では、多分大学などで行われる開発組織による政府やOSCEのトレーニングなどではこれらが最も一般的だと思われるが、(非暴力は)無視される。
- 紛争分析や、紛争を解決するための計画、仲介するための方法や戦略はNGOによる訓練で重要な役割を占める。
- 委任や権限の取り扱いと軍隊との協力も含めた現地での国際的な組織の中での役割。(付録の)例の中では後者は政府の訓練の中にのみ存在する。
- 国際法については政府の訓練コースでしか扱っていない。
- 四輪駆動の運転やラジオ通信法、地雷の認知などの実際的な訓練もまた、政府によるもののみである。
以下は全ての組織に共通するトピックである。
- 性別の問題
- 異文化交流
- チームで活動すること
5.3.4 方法
ほとんどの訓練は個人参加方式によって行われている。役割演技や模擬ゲームは重要で、小さなグループに分かれて活動し実習や他の対話式の方法に重点を置いている。武力紛争における国際非暴力訓練(Kurve Wustrow 1998)における一つの例を挙げると、「方法論的には学習過程を共有するように配慮され、主に参加型の訓練方式を採用している。参加者は経験を共有することにより学び、新たな見方の発見や評価ができる。このように訓練は簡単な理論と紛争仲介のモデルの紹介、役割を演じることや理論を分析に当てはめる実習、これらの経験の評価、の混合である。これらの中で、特に詳細に役割を演じるという訓練は特別な経験となる。たくさんの技術や先例をひとつのシナリオを通じて?一晩程度で?習得できる。(integrating a lot of skills and issues previously discussed into a single scenario ?lasting over an evening, a night and the following morning.?)」
話すことや紙の参考資料発表資料の作成などの伝統的な学習法にどれほど重点を置いているかで訓練は異なってくる。一般的に非暴力訓練の講師は用語の定義を行うよりは実習を好む。一方で伝統的な訓練では役割演技を含む長いプレゼンテーションに重点を置いている。
5.3.5 訓練費用
訓練費用は様々で地理的条件や、誰が行うのか、またはどの機関なのかにより異なる。基本的には以下の5つの経費がかかる。
- 宿泊代。もしも家に住むのなら、家と食事代。
- 講師への謝礼金。国によって相場がかなり異なる。一般には経験を積んだ講師はそれで生活している。つまり少なくとも通常はただではない。一つの国の中でも、値段は異なる。例えば、ドイツでは謝礼は1日あたり500DMから1500DMまである。(USドルにして217から652ドル)。もっと高い値段を請求する講師もいる。
- 訓練教材。最も技術的に進んだ方法、例えばパワーポイントによるプレゼン法でも、この費用は他に比べてごく僅かである。
- 参加者の旅費。参加者が特定の組織から派遣される場合たいていは組織から支給される。費用はもちろん距離によって異なる。
- 参加者の給与*。職業組織はスタッフに訓練中に給与を払う。現地への派遣よりは安い給与になる。
全費用の例を挙げてみると、11週間のドイツのCPSコースは一人あたり40,000DMつまり18,000ドルだ。(講師の給与もふくむ)
5.3.6 トレーナーと参加者
この分野での訓練は世界のどこでも職業資格として認められていない。例えば電気技師は職業訓練を受けて試験に合格すれば自分は技師だと言える。弁護士や医者などの特殊な職業では一定の課程に合格しなければ資格は与えられない。?幾つかの職業訓練校ではさらに実務的な専門技術を専門家に要求し訓練を受けさせるのだが、この基準はしばしば覆される。(例えばPBIでは講師に現場での経験を要求するがドイツのCPSの4ヶ月コースではCPSのボランティアの経験のある講師はいない。)
これは即ち、特に小さな組織では、講師の質は試験では測れないので、他の物差しが必要になる。経験年数、何度も彼らの授業を受けている者の数、どの程度訓練機関のボランティアの標準と合致するか(このような試みはフランス、ドイツの訓練機関に見られる)、または講師の授業の評価(あれば)などである。学術的な訓練機関では、全ての先生たちは博士号や同等の資格を持っているが、また繰り返すが、実務経験についてはほとんどなく、教育資格もほとんどない。
幾つかの訓練機関は多国籍のチームで学ぶことに重点を置いている。(「紛争への対応」やKurve Wustrow)この事はいつも強調されるべき重要で有効なことである。それには資金不足、通信などの困難、ヨーロッパ入国の際のビザの問題がある。
参加者の資格については多くの訓練機関が幾つか基準を設けている。それらは、
- 年齢制限(23から30)
- 海外での経験、しばしば配置先や所属国での具体的な職務経験
- 紛争での経験
- 非暴力や参加型の方法が使えること
- NGOや社会運動での経験
- 高い意欲と我慢強さ
- 職業的訓練と経験を有すること
- 訓練中の言語の理解
- これらを満たしていると証明するものを持って来る事ができること
その他に個人的な事以外で2つのことが必要である。
- グループの構成(国籍や男女比の均衡)
- 資金面(参加者が支払い可能であるか、または誰かが支払いを行ってくれること)
5.3.7 異なる訓練で学ぶ事柄
Kurve Wustrowの2週間コースの評価法は幾つかの事柄に重点を置いていて、それらは一般的に重要である。KurveはPBIやBPTで長年平和チームプロジェクトの訓練に関わってきた。彼は以下のことを批判している。
- 派遣元の組織は訓練機関に扱う項目についての長いリストを送ってくる。「そのため、チームの創造性や参加者の経験を考慮すること、グループ訓練に反応することがとても限られる。」
- 非暴力が戦術や戦法としてしか認識されていない。参加者は「非暴力を学ばなければならない」。「非暴力の解放的局面が忘れられている。」
- 「平和チームの特殊なアプローチである、非党派主義は教義になっている。違った場面での異なるアプローチ方法の長所や弱点を反映する余地がない。
このような講師による批判は、同じ講座の以前の参加者達の批判と比べる必要がある。ヨーロッパボランティア訓練講座(Kurve Wustrowによる、PBI、BPTとクリスチャンピースサービスでの講座)の参加者による評価は訓練内容に一つの影響を与えた。それは、多くの人は一般的なことより、特殊なことを知りたいと思っており、それについての講義は時に十分に深く扱われない。 この事は異なる講座の参加者の評価でもとても一般的なものだ。つまり思想や非暴力の原理について集中して講義することの有効性に疑問を投げかけている。しかし直接的に講座と講師を比較することは為されていないので、違う方法で行ったことがどれほどの影響を与えているか比べることは難しい。訓練の直前直後で講師と参加者に意見を聞いてもコースの違いと有効性にあまり役に立つ情報はない。
もう一つ国際的な訓練で重要だと考えられていることは多国籍性である。この点に関しては個人の優先順位に対する挑戦であり、それは個人の状況を超え固定観念に働きかけ、国際的なつながりを築き共有するものだ。
国際的な講師のチーム(ドイツ人、アメリカ人、ネパール人)が貢献する肯定的な面は多くの参加者が外国語を使うという言葉の問題による否定的な面よりも重要である。
南アフリカでの選挙の監視を行ったスウェーデンのチーム評価は以下の結論に達している。
- 「強調されるべきことは調停と仕事の内容に備えることだ。(紛争解決、調停、調査の方法など)
- 受け入れ側の組織の配置と地理的な場所、チームの構成は訓練前か訓練の始めに決められるべきであり、それにより訓練中にチームを作り上げることができる。
- 訓練は全ての受け入れ側の代表と密接に協力して構成され実行される。
- 主な訓練は平和監視の行われる場所で実施されるべきであり、その地域の文化に対する指導も言語と共に含まれる。
- 性別、階級、年齢、組織、及び文化の違いによるものが原因で起こる対立を処理する準備を含む。」