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フィリピンでの歴史的和平協定――なぜ今回は異なるのか?

TRANSCEND Media Service掲載:ティム・ウォリス(NP事務局長)

 今日では平和協定は価値のないものとなっている。常時世界中の25カ所で戦争が行われており、2週間ごとに平和協定が締結されている。

 公式記録によると、世界中の平和協定のうち半分が数年で破棄されている。イスラエルとパレスチナの歴史的平和協定―どのくらい続いたか思い出してください!スリランカでは政府とタミール・タイガーがノルウェー仲介のもと包括的平和協定を結んで数年後には政府軍がタミール・タイガー軍をせん滅したことを!

 悲しいことですが、多くの平和協定が単なる紙切れに終わりました。

 そして、今回の新しい平和協定です。

 フィリピンの南部の島ミンダナオで2008年平和協定が失敗し休戦破棄されて全島に戦火が広がったとき、多くの大量殺戮が行われ60万人の難民が発生しました。しかし、この時、それまでになかった新たな要素がありました。NPと呼ばれるほとんど無名のグループの非武装の国際市民社会監視員のプレゼンスです。

 これらのNP監視員たちは、この島で静かに活動をしてきました;紛争の両当事者との関係構築、中立で独立した公平な立場で紛争当事者が当面する問題解決の支援を通して信頼を獲得しました。例えば、どのようにすれば弱腰とか譲歩と見られずに不必要な流血を避けられるか、いかに戦場に巻き込まれた市民の安全を確保するとか、いかにして戦闘継続中も敵とのコンタクトを維持し誤解を避けるようにするか、いかにして譲歩と見せないで休戦の探りを入れるとか・・・。

 NPは双方がより洗練され、市民をより尊敬するように手助けした結果、休戦が最終的に合意された時、双方から休戦のもとでのそれぞれの約束と義務の履行を実現するための“休戦メカニズム”でNPが公式な役割を担ってくれるように要請を受けました。休戦監視のための仲介者を指名することはよくあることですが、このような役割は普通はUNや他国(国々)に要請されるものです。このような役割が市民社会の非武装市民からなる一つの非政府組織(NGO)=NPに要請されたことはかってありませんでした。これは歴史的なことですし、今回フィリピンで調印された平和協定が歴史的と言える理由です。

 この平和協定に関しては他に多くの新機軸があり、そのいずれもが注目に値します。なぜならば、これらは21世紀において平和を創り出す新たな方法だからです。

 NGOを休戦監視の支援に用いると共に、紛争の当事者双方はクアランプールでの交渉の支援にも‘国際コンタクトグループ’の一員としてNGOsを用いることになりました。平和プロセスには前例のないことです。紛争の現地でも地域のNGOsが休戦監視と市民の保護の支援にあたる公式の役割を与えられました。関係各国の役割も重要です。しかし、本当に画期的な新機軸は非武装の国際市民平和維持活動家を紛争地での休戦監視に充てたということです。何故そうしたのでしょか?

 平和協定や休戦が銃やタンクやヘリコプターで完全武装された兵隊、国連などによって監視されている時に、戦闘員や最も被害を受けている市民はどう受け止めているでしょうか?‘平和’のためであれ、兵士を派遣することは、戦争の問題であれ平和の問題であれ、軍事力、暴力や力が問題を解決するという古びた想定を単に強化するだけです。

 多くの平和協定が長続きしないのは不思議ではありません!多くの休戦協定が破られるのは当然のことなのです!二つの軍隊の戦いによって引き起こされた問題の解決のためにただ単に更なる兵員を送るだけでは、戦争のメンタリティに挑戦し人びとが問題を処理する方法を変えてみようという試みさへ始まらないでしょう?

 NPはこのようなまったく混乱した事態に新たな次元を投入し、すべてを逆にするのです。NPは主張します;紛争地ではあなたは兵士であるよりも市民でいる方が実際により安全であると。実際、あなたは軍人としてよりも市民として無垢の市民をよりよく保護することができます。実際、あなたは軍隊としてではなく非武装の市民として介入することにより暴力を減少―暴力のサイクルを断ち切って―させることができます。

 これは画期的な出来事ですが、フィリピンでは過去2年間ほとんどの場合気付かれないで行われ、しかも大きな成果を上げたのです。これによって、時間のテストに耐えて戦火に苛まれた島民に彼らが最も望んでおりまた受け取るにふさわしいもの―即ち真の恒久的平和―を与える実現可能性の高い平和協定が可能となったのです。

 そして、紛争現場で現に平和が保たれている時に初めて交渉中の平和が実現可能となるということが、調印されたばかりの平和協定にとって極めて重要なことなのです。ほとんどの休戦協定は合意されたその日から破られ、日ごとにそれが続きます。なぜならば双方が相手を試し続け、交渉を有利にするために兵力を強化し、もし望み通りにならなければ、それを得るために何時でも戦闘再開する用意をしているからです。多くの伝統的な休戦監視団はこのことを知っていますし、彼らの仕事は平和交渉に戦闘のチャンスを与えるために好戦者たちをたんに食い止めているだけだということを知っています―彼らは決して問題や衝突や事件や違反などへの対応はしないのです。これが現在までのやり方なのです。

 NPはミンダナオでの休戦をただ‘監視してきた’だけではありません。NPチームは紛争地で毎日文字通り‘平和維持活動’を実践してきました:現場での具体的な問題への取り組み、双方を譲歩させ、強制退去や日常生活の中断を防止し、人々が真の平和に慣れ親しみ、平和を期待するよう励ましてきました!これらのことが今回の新たな平和協定での新しいダイナミクスとなっています。

 ミンダナオの住民は2年間の平和を得ており、彼らはこれ以下のことは受け入れないでしょう。戦争勃発の際に被害を受けた一般の市民は平和を要求し、今や、好戦家は彼らに平和を与えざるを得ません。

 好戦家たちはどうなるでしょうか?多分彼らも非武装の市民平和維持活動家たちの‘洗練された’プレゼンスにいくらかは影響されているでしょう。紛争期間中、NPは尊敬と尊厳をもって好戦家たちに対応してきました。好戦家たちも戦闘に巻き込まれた市民を尊厳と尊敬をもって対応することが彼らの利益にかなっていることを学んだでしょう。そして、休戦や国際人権法規や戦争法規の遵守することが正しいことを学んだことでしょう。

 NPは兵士を平和主義者に転向させたことはないし、そうした野心は持っていませんが、国のため或いは自決のためであれ大義のために戦う兵士たちが、いかに闘いが行われているか、特に女性や子供のような一般市民がどのように取り扱われているかに対しても責任を持っていることを忘れないよう注意を喚起してきました。これらの一般市民が尊厳と尊敬を持って取り扱われ、権利と生活が虐待や戦争違反から保護され続ければ、これは非常に重要な平和協定であり戦争の歴史の転換点となるものであります。