非暴力平和隊・日本

非暴力平和隊実現可能性の研究【第1章 第1節(3)】

第1章 非暴力平和隊のイメージ

クリスティーネ・シュバイツアー

1.1 いくつかの概念の明確化--非暴力、紛争、および紛争介入

1.1.3 紛争の激化と沈静化について

1.1.3.1 紛争の段階

紛争は、潜在していても顕在的であっても、遅れることなく処理されなければ、激化に向かいがちであると言って差し支えない。 通常激化は、当事者間の対話が途絶えてしまい、通常最初は口頭での暴力、続いて物理的な暴力を用いる準備が整うことを意味している。 多くの社会科学者が、紛争激化の典型的な段階について記述することによってその進行度合いを定義しようと試みて来た。

フリードリヒ・グラスルは主にビジネスの面で紛争を扱っているのだが、彼の9段階の設定は、大規模な政治的紛争にも容易に用いることができる。

グラスルは、紛争中の当事者が、彼らの継承して来た共通の体験が打ち壊されるにつれて、建設的なやり方の中で協力しあう能力をどのように失っていくのかを示している。 彼は、紛争の激化に決定的に寄与するいくつかの「後戻りできなくなる時点」を特定している。 第1段階では、態度の硬化が起きる。 それが応対処置の中心である紛争の内容であり、当事者たちは問題の解決が可能であると信じている。第2段階では、対立と論争が起きる。紛争中の当事者たちは、彼ら自身の内部で結束し(結合)、固定観念が発達する。彼らが、互いに話し合うことが生産的ではないと感じる地点に達すると、彼らは「事実を創造する」(第3段階「言葉ではなく行為」)。 そこから、対立している当事者との関係は紛争そのものの内容の中心部分となる。「あいつらと話をしても何の役にも立たない」が体験談であり、「今や、俺たちは行動しなければならない!」となる。 これから先は、敵対者がお互いに持っている観念が演ずるように、お互いの相手に対する態度は明らかに敵対的になる。紛争中の有力な一群が衰退するのにつれて、当事者たちは互いに、相手側の行動によって脅され危険にさらされている、と感ずる状況に陥って行く(第4〜第6段階)。第4段階では、その関係が問題となり、固定観念および「勝ち/負け」の状況が起こる。第5段階では、敵対者の立場に対する直接攻撃が始まり、それぞれの当事者は相手の面目を失わせるように相手の「真の本性」を「暴露」することを探し求める。第6 段階では、脅かしが始まり、散発的な暴力行動が起きることがある。

次の決定的な一線を踏み越すのは、脅迫と最後通牒に代わって、関わっている組織あるいはグループの勢力基盤に向けた行動(まだ限定的だが)に踏み切った時である(第7段階)。当事者たちはこの瞬間から、相手をもはや人間的交際関係とは見ず、撲滅してしまいたい対象として見る(第7〜第9段階)。 これから先、互いに向けられる暴力は紛争の主要な問題となる。第8段階では、敵対者の勢力基盤と存在そのものが目標となり、相互に破壊がおこなわれる。最終の第9段階では、自分たち自身の破壊さえ犠牲にしての全面的対決となる。 唯一の目標は相手を消滅させることとなる。

ロナルド・J・フィッシャーは、グラスル・モデルのオリジナルの文脈が、主に組織内部あるいは組織間の社会的紛争を扱っているのを、政治的な紛争に関する文脈に変換した。 彼はグラスルの9段階を4段階に簡素化した。すなわち、第1段階:対話、第2段階:対立、第3段階: 隔離、第4段階: 破壊である。

もちろんのことだが、レーザーマン他が指摘しているように、段階について説明する紛争のあらゆるモデルは、実際の紛争を大幅に簡素化したものである。紛争の過程は、通常多次元的であり、二者択一的なやり方で展開する。それぞれの紛争は、複合的問題と同じように、多くのレベル(例えば、個人、社会内部、国際的)があるのが普通である。激化は、縦方向(態度、手段の選択)と、横方向(問題、目標、活動家、地理的範囲の拡大)の両方で起きることがある。

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1.1.3.2 非暴力紛争の進展

グラスルとフィッシャーによって開発されたこのモデルは、非暴力解決の進展の可能性を認識していない。 事実、この見方は、非暴力抵抗および非暴力行動、あるいはそのいずれかを特に扱ったわずかな例を除き、紛争と紛争解決に関するほとんどすべての研究では見落とされている。

一つの例外は、「紛争の転換」という術語を作りだしたジョン・パウル・レーデラッハである。 紛争の変換とは、非常に不平等な政治権力の配分ならびにまだ紛争問題にはなっていない問題を抱えている静的な状況から、よりましな権力の均衡があり、問題を処理できる可能性をもった動的な状況への発展である。これは潜在的な段階から、抗議の意志表明までの紛争段階を含んでいる。 静的な状況を終わらせるために、抗議が組織され意見表明することが必要である。 これが発生すると、反対勢力も生まれるかも知れない。新しい権力配分は、紛争問題を明確化させるための条件、および紛争中の当事者間の新しい関係の表現の両方である。レーデラッハは、紛争変換は20年あるいはそれ以上の長期間にわたる過程であって、変換過程の中のもっとも即応的な行動に過ぎない短期間の危機介入と混同してはならない、と強調している。

この変換に対して非暴力行動が寄与することは明らかである。非暴力行動は、紛争を目に見えるものとし、抗議と抵抗という非暴力的手段によって権力のバランスを変えようと努める。

セオドール・エバートは非暴力行動の中の3段階の進展を定義した。各段階は、打倒する要素と建設的要素の両方を備えている。

  • 打倒行動としての抗議、および建設的行動としての「機能的なデモンストレーション」
  • 合法的な非協力、および役割の法的革新
  • 市民的不服従と市民的奪取

一般的に言って、事態は次のように進展する。

  • 活動範囲(地理的あるいは時間的)の拡大
  • 活動家の数の増加
  • 市民的不服従行動と他の直接行動の増加

ヒルデガルト・ゴス-マイアは、討論の始めに、紛争の分析をおこなった。 続いて、いくつかのグループに分け、非暴力トレーニングを始めた。グループは、互いに接触すると、協力し始め、戦術を選んで、不正を支えている支柱を弱体化させ、最終的には中立化させるための活動を始める。不正の支柱が根こそぎにされるほど、そして多くの団体やその他の主要な関係者たちが味方につくほど、もはや現状を維持することができなくなる瞬間が近づいて来る。 これが、代替手段を発展させ、権力の新しい配分を作り出す瞬間である。以前の敵対者を含めてあらゆる人々が、この過程の関係者である。

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1.1.3.3 紛争変換の詳細

紛争解決(conflict resolution)、紛争和解(conflict settlement)、紛争対処(conflict handling)、紛争処理(conflict management)、紛争調整(conflict regulation)、あるいは紛争転換(conflict transformation)という用語は、区別されることなく使われることが多いが、意味合いに微妙な違いがある。紛争解決は「紛争の深く根ざした根源に取り組んで解決する」ことを含意している。 紛争和解は「当事者たちが、武力紛争を終わらせることのできる合意に到達すること。その合意が、紛争行動の暴力段階に終わりをもたらす」ことに当てはまる。紛争調整と紛争処理は「積極的な紛争対処の全領域をカバーする包括的な用語として時々用いられる」

紛争変換は、紛争を取扱う過程に重点をおいているので、私の見るところでは、他の用語より望ましいものと言える。 それはヨハン・ガルトゥングが定義した有名な紛争の三角形の三つの頂点すべてを扱っている。紛争を取扱う過程はその三角形の周囲を巡って移動する。

この点において、紛争変換は外部団体がおこなうこととは同意語ではないし、紛争介入とも同意語ではない、ということが明確に指摘されるべきである。地元の平和構築者や平和支持者ならびに平和区域の重要性は、この数年間でますます大きく認知された。

ミュラー/ビュトナー(1998)は、紛争激化の度合いを含めるために、三角形をピラミッドにすることを提案した。 彼らは、グラスルの紛争激化図式の最初の三段階では、内容が紛争の中心であり、次に、相手の態度が主要な要因になる。そして、紛争が暴力的になるとすぐに、行動そのものが主要な問題となる、と主張する。

ピラミッドダイヤグラムはこのように見えるであろう。

そうすると、紛争の沈静化はこの過程の逆行として捉えることができるかも知れない。最初に強調されることは行動についてであろう。すなわち、停戦による暴力の停止であり、次に、停戦を監視することである。 そこで態度に対する作業を始めることができる。 態度がより良い方向に変化したときにのみ、もともとの紛争を扱って、解決策を探す試みに取り組むことが可能になるであろう。(続いて態度について作業する時期となり 、態度の中により良い方向への変化がある時にのみ、もともとの紛争とその内容を扱って、そのための解決策を探すことを試みるチャンスがあるのだろう)

ほとんどの専門家は、この最初の想定については同意するであろうが、2番目と3番目の順序には疑問をもつかも知れない。事実、当事者たちの関係について何らかの実質的作業もなされないままに、何らかの平和合意(上に定義された意味での紛争和解)が結ばれることもしばしばである。 平和戦略に関する章では、三つの次元すべてに、同時に取り組む必要であることを論議する。

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