非暴力平和隊・日本

非暴力平和隊実現可能性の研究【第2章 第3節】

第2章 介入における戦略、戦術、および活動

クリスティーネ・シュバイツアー

2.3 人道支援と開発組織

2.3.1 はじめに

人道的支援、開発支援と紛争ならびに紛争転換とが(お互いに)関係しているとの認識が増大してきた。
これは、一つには、過去10年人道的な破局が増え続けており、人道支援と開発支援双方に大きな課題を生じたことから明らかになったものである。これらの破局のほとんどは内戦や長期化乃至膠着状態の紛争による人為的なものである。その結果、以前は長期開発支援に回されていた多くの資源が現在は緊急行動に振り向けられざるを得ない。そして、結果的に、長期開発プロジェクトへの努力が損なわれている。
人道援助の場合、中心的に議論されているのは主に人道援助が紛争の副産物として招く否定的或いは肯定的なインパクトについてである。
開発協力に関しての問題はもっと複雑である。この分野での多くの組織は常に平和と開発を同じ硬貨の両面と見ては来たが、実際に紛争への対応は、10年ほど前までは大きな役割を果たしていなかった。現在、益々多くの開発と支援組織は、彼らの努力の持続可能性は安全な環境に拠るとの認識が深まってきた。彼らのあるものは紛争はプロジェクトを立案するときに考慮すべき環境の一部と見做すようになり、又、他の組織は紛争転換自体に集中してプロジェクトをスタートさせた。平和調査の新しい支流である紛争インパクト評価調査は、この種のプロジェクトの紛争へのインパクトを評価する。
これら何れのアプローチもNPが目的とするものに直接は移植することは多分出来ないだろうが、人道援助と開発事業からは多くのことが学ばれる。これらは主に“Do No Harm-害すべからず”アプローチや現場でのプレゼンスによるインパクトの他の課題に関心を寄せている。他の課題とは中立性を保つかどちらかに組するかの問題、例えば紛争転換の仕事と物資支援の結合と言った様な組織構成や活動に関するものである。

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2.3.2 特性と目標

様々の組織が開発、支援、紛争転換の各分野で働いている。これらは下記のようなものがある。

  • 国連諸機関のような国際/政府間機関(例えば、UNDP, UNHCR, World Food Program, UNICEF)や世界銀行
  • 赤十字(ICRC)や赤新月社(Red Crescent)の国際委員会は国際人道法の中での特別の位置づけ故に範疇としては独自のものである。
  • 国際NGO(例えば、国境なき医師団MSF、オックスファム)、単一国をベースとするNGO(ノルウェー難民委員会)、教会・宗教をベースとするNGO(例えば、カトリック教会のCaritas or Catholic Relief Services)
  • 目的国における行政機関と組織
  • 目的国におけるNGO

益々多くの組織が世界中で人道援助に傾注しつつある。古いICRC、セイブ・ザ・チュール、セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン財団、オックスファム、等に加えて、新しい組織が1970年台、1980年台に創設されたが、その多くは1967-1971年の Biafra戦争のインパクトによるものであった。一般論としてしまうのは間違いであろうが、少なくともそれらのうち幾つかは現場での完全局外中立という点で其れまでの組織の倫理、行動規範を破ってきた。彼らは人権侵害を批判し現地の有力者と躊躇せずに対峙し、介入することを権利のみならず義務とまで規定している。国境なき医師団のような組織は定期的に人権問題についての記事を書き、彼らが働くつもりの当該国の政府の正式な招聘或いは許可よりも、日々の危機分析に基づき危機地域における積極的関与への彼らの決定のベースとしている。
これら組織の多くは又開発計画も実施している。加えて、緊急援助には全く関わらない別のタイプの組織も色々存在する。第一章の「平和活動」で述べた幾つかの開発支援はこのカテゴリーに属する。
人道援助組織がその仕事ベースにするのは国際法、特に、世界人権宣言や市民的、政治的、経済的、社会的或いは文化的な権利における様々な約款や協約などである。例えば、避難民の身分、婦人に対する差別、1949年の4つのジュネーブ協定などである。国際的な開発組織が今日しばしば準拠するのは1992年の国連リオ会議で制定されたアジェンダ21であり、キリスト教徒をベースとする開発援助機関(多くがそうであるが)は Ecumenical Conciliatory Process(世界統一キリスト教推進会議)に言及する。これら両者は以下の面で同様の見方を共有している。即ち、工業化とグローバリゼーションの脈絡の中で現在進行中の破壊的なプロセスをくじく為には、世界のあらゆる部分の協調と相互依存が必要であり又それは世界のあらゆる市民の責任であるとの認識である。
同時に、諸組織が現場に持つ要員の人数には相当のばらつきがある。大きな国際的NGOは千人台とまで言わなくとも容易に数百人に届くところがいくつかある。支援と開発組織との間の典型的な違いは前者が大型の特別チームで働くのに対し、後者は現場にコンサルタントとしてしばしば単一の専門家を派遣するのみである。これらの単一の専門家は北部出身者が南部に派遣されるというのが典型的である。但し、国連ボランティア計画と言うような幾つかの組織は植民地時代のイメージを吹き込むようなそんな関係を上手く避けようとしている。
人道援助と開発事業は同一組織が両方に関与するためその境界が解消される傾向が増えてきている。これら組織の間で大きくなりつつある共通認識は援助と開発は完全に分離した活動というよりは力点の置き方の問題であるということである。“連続概念”と言う組織もある位である。これは開発協力―緊急援助―復興―開発協力において持続的な開発を可能とする現場の構造と能力の開発の支援を目的とした緊急支援と復興の実行に主たる焦点を当てるものである。
多くの人道、開発組織はアプローチの原則のみならずより実用的な“べし、ベからず”を概説する行動規範を作り出してきた。

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2.3.3 活動

緊急援助は自らは緊急事態に対処できない被害者に食料、衣料援助、避難所などの支援を与えるものである。後の段階では、それは物質的物理的な再建、避難民の再定住や旧戦闘員の復帰による援助を意味することもある。これらの活動の中には避難民再定住や旧戦闘員復帰のように紛争と直接関係するものもある。然し、全般的に再建事業も、先章の「市民平和活動」の活動の例証に示されたように、紛争に対処するのに重要である。
時として、人道支援と開発組織のプレゼンスが更に全般的な保護機能を発揮することがある。マホニィとEgurenはスリランカの例を挙げているが、“そこでは国連と大きな国際的NGO双方で働いたことのある秘密の情報源によれば、このような暗黙の保護は国連乃至NGOから与えられた現実の物資援助よりもスリランカにとってはもっと重要なサーヴィスであった、との事である。彼の意見では、当局者の目には保護は政治的に問題があるのに対し、人道援助は受け入れやすいものである。ほとんどの大規模NGOは彼らのプレゼンスで保護を与えていることは認識していながら、このようなことを公表しない“との事である。
開発協力は多くの活動を伴う。例えば、技術支援、地域開発、生計支援プロジェクトのようなものであるが、これらは紛争には間接的なインパクトしか持たないかもしれない。紛争と平和に関して、OECDによる紛争、平和と開発協力の提言の中で開発組織の活動のある分野について記載されている。この提言によると、開発協力は要員の訓練や改革に責任ある人たちに助言を与えることで、優れた統治、人権の尊重と警察、司法機構の改革に資するであろうとの事である。更に、それは市民社会や態度、価値観や制度の開化を支えるのに役立つであろう、と。この分野にこそNGOネットワーク、平和支援者、教育や独立メディアの紛争に対処する伝統的な仕組みがふさわしい。(この最後の文章は難しいですね)
開発協力における紛争関連の活動分野について更に詳しく下記の中で確認できる。

  • 文化活動(例:演劇、音楽)やメディアの中の民族多元主義の文化的な作品やメディア、例えば独立ジャーナリズムの支援
  • 非武装化(例:武器買戻しプログラム)、兵士の除隊と社会復帰のプログラム再編、警察と軍隊への非暴力訓練
  • 選挙監視や投票人教育を含む公民社会の支援、国民会議の支援、紛争解決で働くNGOの支援、人権組織の支援、民族的、社会的に末端のグループをその利益を明確にすることでの支援
  • 地域レベルでの調停プログラムの開発のような司法制度の支援、末端のグループが裁判を受けられる為の支援、真相解明委員会(truth commissions)の支援
  • 非暴力訓練を含む教育、偏見削減に関する若年層との仕事、歴史を真剣に学びはじめるための支援。
  • 開発機関のみならずCivil Peace Servicesによるもう一つの可なり典型的なサービスは子供や避難民に対する心的外傷カウンセリングである。
  • 場合により、開発組織が平和維持活動に携わることもある。例えば、The German Dienste in Ubersee(サービス・オーバーシーズ)はグアテマラで脅迫されていた司教を随行した。もう一つの組織(AGEH)はブラジルの土地非所有活動を支援する為に開発要員を派遣し、そこでは彼の存在は武力攻撃を阻止するもう一つの機能として明らかに働いたのである。

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2.3.4 結果とインパクト

ローカル・キャパシティ・フォー・ピースという名の入念なプロジェクトがアメリカ合衆国をベースとするCollaborative for Development Actionのリーダーシップのもとで支援と開発組織の連合体により実行された。それは人道援助が紛争にどの様なインパクトを持つであろうかとの疑問を扱ったもので、やがて一般的に「害を加えるな」アプローチとして知られている幾つかのケース・スタディーをベースに問題点・課題を系統立てて明らかにした。このアプローチによれば、支援が二つの面で紛争に影響を与えると言う。第一に資源移動によるものと、第二に暗黙の倫理的なメッセージによるものである。人道援助の課題はこれらのネガティヴな副産物の発生を防止する為に使命をいかに企画し実行するかである。
資源移動は下記のような方法で紛争に跳ね返り、長期化させて悪化させる可能性がある。

  • 盗難:非常にしばしば支援物資は軍隊によって盗まれるがそれは直接的(食料が兵士に食わせる為に盗まれる場合のように)または間接的(兵器を購入する為に食料が盗まれ売られる場合のように)に戦争努力を支える為である。
  • 分配効果:支援はある者に向けられるものであり、即ち、他の者には与えられない。これが紛争に勢いをつける傾向がある。一方のグループが紛争の中で前もって形成された側と同一視された場合は特にそうである。他方、下部グループ全部に分配された支援はグループ間の亀裂を和らげることがある。
  • 市場効果:支援は価格、賃金や利益に影響し、戦争経済(戦争に関係する活動や人人を富ませて)を強化するか、或は平和経済(正常の市民生産、消費、交易を促進して)を増強する。
  • 代替効果:支援機関が戦闘地域で市民の生存の責任を持つ場合、彼らが与える支援は存在するあらゆる内部資源を戦闘遂行の為に解放することになる。
  • 正当化効果:支援はある人や行動を正当化し、その他の正当性を否定する。それは戦争を遂行する人や行動か或いは非戦を訴求し維持する人や行動のいずれかを支持する。

支援によって伝えられる暗黙の倫理的メッセージには次のようなものがある。補給を保護する為に戦争当事者と輸送の交渉をするか武装警備を雇うかにより戦争の条件を受け入れるメッセージとなる。戦闘員に正当性を認め平和時の価値を蝕む(例えば、支援組織が現地の人より自分の国際要員の生命の価値を高きに置く場合)事。戦争の中で犯された残虐行為を彼らの基金調達の中で公にすることで反感を煽ること。
開発協力は否定的になりうるインパクト多く含んでおりその幾つかはこれまで30年間以上も開発援助の全般的な批判として取り上げられてきた。課題として含まれるのは開発プロジェクトが貧困を軽減するのではなく現地の不公平を固めてきたこと、資源を守るのではなく資源に関する紛争を助長してきたこと、独裁主義体制を支持してきたこと、文化的な価値を疑問視したこと、NGOが海外からの募金を守るだけのために設立されたというようなNGO市場を創り拡大してきたことなどである。
更に具体的に言うならば、紛争に対処する中での開発協力による結果とインパクトに関する調査が現在行われつつある。然し、私の知る限り、法則化できたのはこれまでほんの数例に過ぎない。「害を加えるな」アプローチを開発した組織と同じグループによる「平和プロセスへの省察」のような学習されたより大きなプロジェクトや「紛争に関するヨーロッパ・プラットフォーム」による同種のプロジェクトは未だ途上にあり、その成果を公表してはいない。他方、単一プロジェクトのインパクト分析はある特定のケースで何が上手く行ったかは示せても、前向きなインパクトの得方について一般的な教訓を定型化するために使うには限界がある。

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2.3.5 人道支援と開発プロジェクトの中で紛争に上手く対処する為の諸条件

  • 一つの必須前提条件はアンダーソンにより提案された方法論を使用したような優秀で継続的な紛争分析であろうと思われる。これはある紛争で離間させる物と結合させるものが如何なるものかを追及し、例えば紛争の争点を超えて支援を与えることや、多民族要員を使うこと、そして内部の疎外された人たちの支援で当該地域社会が恩恵をこうむるよう配慮することなどにより、後者(結合させるのも)の強化を図ることである。
  • 自分自身の行為を通じて伝達される倫理的メッセージにより、有形であれ無形であれ戦争を支持するようなことは避ける。
  • 「害を加えるな」アプローチが強調するのは自分自身の行動規範により手本を作ることは肯定的なインパクトを作るのに非常に重要であるということである。
  • 紛争改変アプローチを他の分野での物資援助や相談相手となることと結びつけるのは有効でありそうである。というのはそれが紛争の原因(貧困、収入手段の不均衡)に取り組むであろう為とそれが要員が信頼を築き上げる機会を与える為である。
  • 特別の紛争解決スキルは非常に有効であると考えられる。例えば、ドイツでは開発支援団体は現在そのようなスキルを紛争に取り組むプロジェクトのために派遣される要員の通常訓練プログラムに取り入れている。
  • 開発アプローチの長期的性格は、要員が長期にわたる変化を見ながらそれに影響を与えられる為、プロジェクトには有利のようである。
  • パートナーアプローチは通常開発組織により必須の条件と考えられている。それに対し30-40年前の経験ではパートナーアプローチは一般的な原則ではなかった。時にこの原則に従わない「市民平和活動」に関しては、平和植民地主義の危険がインタビューの中で暗に言及されている。このことは開発組織がそれ自体特定の紛争の中で何れにも組しないということを意味しないであろうが、パートナーシップ自体は何れにも組しないほかの組織にとっては自分たちの仕事にそぐわないとして受け入れられるものではない。
    一方、インタビューを受けたある人は彼の組織が現地紛争に関与し始めたときに非パルチザンということが重要さも増したと強調した、そのような地域紛争の一例がアフリカにある。要約すると、非パルチザンアプローチが重要になるのは人が紛争に対処する場合であることを開発組織の経験が確認しているように見えるけれど、非パルチザン主義が意味するところは、例えば正式な現地パートナーを持たないことを選択するように、状況によると言うことで、一般論とはなり得ないということのようである。

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2.3.6 非暴力平和隊の意義

NPは多分人道緊急支援にも開発プロジェクトにも関与しないであろうが、これらのプロジェクトや組織が学習した教訓のうちどれが将来のNPの仕事に移植可能かを慎重に検討する必要がある。このことは特に「害を加えるな」アプローチにより展開された警告や提言に当てはまる。資源の使用に始まり避難準備に至るまでの暗黙の倫理メッセージのほとんどのものは直接移植可能である。加えて、然し、戦争の直接的支持に関する課題も考慮されるべきである。短期的平和軍的な使命のうち二つの例からの質問/課題を考えていただきたい(1.4《第2章の、つまり2.1.4と思われる。訳者注》とその詳細補追参照)

  • ガルフ・ピース・チームは戦争拡大を阻止するという名のもと、紛争の一方に使われることを自認した。彼らはクエート、イラクにおけるシイヤ派やクルド少数民族への攻撃や毒ガスの製造と行使を暗に容認したことになろうか。
  • ミル・サーダ・ピース・キャラバンの間、アメリカがサラエボのセルビア陣地を爆撃する意向であるという噂が始まったときに参加者の間である議論が起こった。問題は、もし我々がそこに行けば、爆撃は起こらない。同じ陣地が連日サラエボに砲撃しているという事実であるにも関わらず、我々はそれを阻止したいのだろうか。

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