非暴力平和隊・日本

スリランカ通信(17)2004.3.20

スリランカ通信17号/ヴァルチェナイというところ

2004年3月20日
大島みどり

この通信は私の個人的な感想や考えを述べたものであり、Nonviolent Peaceforceあるいは非暴力平和隊・日本の公式見解を示すものではありません。転載・転用をご希望の際は、筆者あてご連絡ください。

みなさま、こんにちは。

日本は春分、お彼岸のころですね。「暑さ・寒さも彼岸まで」と昔(?)の人は言ったようですが、そろそろ春も本番。桜の開花予想などが出ているころでしょうか?日増しに暑くなっていくスリランカではうらやましい話です。

さて、前回選挙当日までの行動予定などをお知らせいたしましたが、予定は未定、現実は思ってもみないような展開を見せています。

前回の便りから3日後、コロンボからの電話で、スリランカ東部バティカロア地区ヴァルチェナイという村で活動しているチーム(メンバーはふたり)を応援しに行って欲しいという要請を受けました。それも翌日にコロンボへ移動、翌々日にヴァルチェナイへ移動という至急のものです。

スリランカ北部と東部は、タミル人とムスリム(イスラム教徒、回教徒)の人々が多く住む場所。そしてLTTEという政府に対抗しているタミル人の武装勢力が支配力を持つ地域です。彼ら自身はタミル人の代表を名乗っていますが、これをどう見るかは、人によって意見が分かれるところです。そういう複雑な政治的背景があるということだけ今は書かせていただきます。そしてLTTEはもちろん、いまスリランカで進んでいる(あるいは停滞している)和平交渉の一方です。(もう一方はもちろん政府側ですが、政府側と言えど、現大統領と元首相の所属する2大政党が勢力争いを繰り広げています。)

LTTEは北部のキリノッチというところに総司令部を置いていますが、北部と東部では経済をはじめ、さまざまなところで、意見の相違や環境・待遇などの差異が見られていました。それが今回少し大きな問題となって、LTTE内で分裂が起こる様相をみせています。これもかなり複雑な話になるので、ここでは避けさせていただきますが、とにかくそんな状況の上に、選挙といういわば一大イベントが重なり、暴力事件の数が増えつつあったので、ふたりしかいないヴァルチェナイ・チームの応援に、ジャフナ・チームのフィリピン人女性とマータラのわたしに、声が掛かったという次第です。

ヴァルチェナイはコロンボから車で7−8時間の距離にあります。直線上ではもっと近いはずですが、道路の状況が悪く、遠回りをしなくてはいけません。マータラから来たわたしには、ここは本当に『村』というイメージです。ティー・バッグも買えません。(葉っぱのものしかない。)いまどきどこにでもあると思っていたしょうゆ(soy sauce)さえありません。つまりスーパーのような建物もないのです。買い物は一直線に伸びる200mもないメイン・ストリートですべて済ませられます(というか、済ませないといけません)。すでにここに住み、活動していたふたりのチーム・メイトのことは村中の誰もが知っているはずですし、カナダ人女性のアンジェラにいたっては、彼女の親しみやすさが多いに手伝って、誰もが友達という状況です。話下手で人付き合いも悪いわたしでさえ、おそらくここを離れるまでに、マータラで持っている数ほどの友人を作れるだろうと思います。

こんなフレンドリーな村ですが、ここはタミル人とムスリムの対立が20年越しで続いています。ただし、いまは選挙の時期で、その対立よりも、かえって違った政党を支持するサポーター同士の争いのほうが主役にまわっています。そしてこれは、ヴァルチェナイに限ったことではなく、近隣の町々、村々に広がっています。タミル人対ムスリムというより、ムスリムの人同士の政党間(支持者間)の暴力事件のほうが、より多く起こっています。支持政党が違ってなぜいけないのか、19歳の男の子が右目を銃で撃ち抜かれた話を聴くにつけ、悲しくなります。

いまヴァルチェナイでわたしたちは、NPとしての通常の活動(他の地元NGOや国際NGO―これはマータラにはない!―とのネットワークや、聴き取り調査など)と、選挙に関する監視という二重の仕事をしています。決して、暴動の中に入って仲裁しようとしたり、危険な行動はとりませんので、どうかご心配なさらないでください。

わたしたちができることは、あくまで監視であり、そこにいること(プレゼンス)で、暴力の数や度合いを少しでも減らすことです。もちろんこれらがどの程度本当に役立つのかはわかりません。その上、暴力事件が起きるのは、圧倒的にわたしたちが不在の場であり時間です。4人しかいないわたしたちができることは限られています。それでも、わたしたちの活動が見直され、改善されて、将来のより有効なNPの活動につながればと思います。

長くなりました。まだまだご報告できることはありますが、とりあえずきょうはここまでにさせていただきます。

仕事の状況(先の予定)が、不確定なので、メール送受信はマータラにいるほど思うようになりません。また落ち着いてメールを書く環境も(訪問者がひっきりなしにある上、じぶんひとりの部屋もコンピュータを置く机もない、など)ないため、スリランカ通信をお送りするのも、容易ではないかと思います。どうかご了承ください。

それではみなさまお元気で。
ヴァルチェナイの、スリランカの人々の心の平安を祈ってください。

大島みどり

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